スポーツ賭博…依存症の「高リスク」 スポーツとギャンブル…興奮は“二乗三乗”
■自身の体験 罪悪感がありながら「1回200万円」
ギャンブルを「自分で辞めなきゃ」と思い込むのではなく、「助けを借りなきゃ」と自分の弱さを認めていくことが大事―――。田中さんが、そう思うのは自身の体験も関係している。 ギャンブルに溺れた祖父と父。幼い頃からギャンブルは“身近”にあった。 結婚した夫とは、デートのたびに競馬場や競輪、競艇場に行った。そして海外のカジノにも。最も辛かったのは、子ども2人を幼稚園に通わせていたとき。毎月1万2000円の月謝を滞納し続けながら、競艇となると1回200万円以上をつぎこんでしまっていた。 ストレスの解消法だったギャンブルは、ストレスの原因になっていた。もちろん、罪悪感がなかったわけではない。「本当に最低の母親だな」「もう死んでしまいたい」―――。それでも、辞められなかった。“ギャンブル依存症”という病気があることを知るまでは。
■薬や治療で治るものではない
田中さんは、専門のクリニックでギャンブル依存症と診断を受けた後、回復を目指す患者たちの“自助グループ”につながることができた。 問題にぶつかったとき、どう解消したら良いのかアドバイスをもらったり、今までの生き方を振り返って、“これはやめた方がいいよ”と指摘してもらったり。ストレスがたまったとき、どう自分をコントロールしたらいいのか。責任感の強い性格については、“もっと周りに助けを求めていいよ”と言われた。 しかし田中さんは、自身の価値は、その性格にこそあると思っていたため、「生きていていいのかなって気持ちにもなった」という。 そんな田中さんが“そんな自分でもいいよ”と思えるまでには、長い時間がかかったという。ストレスのはけ口としてのギャンブルを辞めるまで―――。積み重ねたのは、同じ苦しい経験をした仲間との会話。 ギャンブル依存症は、薬や治療で急に治るものではないのだ。
■家族や友人は「“やめさせる”行動にいきがち」
賭けについて水原氏は、プロバスケットボールやサッカーの国際試合などで、野球は含まれておらず、“違法なものだという認識はなかった”などと話したという。 アメリカでは、30以上の州でスポーツ賭博が合法化されているが、大谷選手が所属するドジャースや、前の所属先であるエンゼルスがあるカリフォルニア州では違法。田中さんは、日本でも違法だと知らずにスポーツ賭博に手を染める若者が多いといい、「対岸の火事ではない」と話す。 “趣味”で始めたはずのことが、“愛好家”を通り越し、気がついたら“依存症”になっていた―――。田中さんは、「大体3%と言われていますけど、依存症を発症すると言われています。誰が発症するかは、全く分からない」という。 自分の周囲の人がギャンブル依存症になったら、どうすれば良いのか。 田中さんは、「家族や友人たちは、“やめろ”と言ったり、お金を管理したり、誓約書を書かせてみたり。『当事者をなんとかさせる』という行動にいきがち」と指摘する。だが、その行動は正解ではないという。当事者自身も「やめろ」という言葉は理解している。それでも「やめ続ける」という行動ができない、病気なのだ。 大切なのは、治療や支援につなげること。 田中さん 「その人の人格や性格の問題だと思うと、いつまでも解決策は見つからない。ギャンブル依存症という病気を理解しようと、一人ひとりが取り組んでもらえるとうれしいですね」