ブルー・オーシャン戦略の重要性を高めた4つのグローバル・トレンド
■なぜブルー・オーシャン戦略の重要性が増しているのか 2005年に『ブルー・オーシャン戦略』を世に出した当時、ブルー・オーシャンを創造する重要性は数々の事情によって高まっていた。なかでも最も顕著だったのは、既存業界の競争が激化してコストと利益への圧迫が強まっていたことである。 これらの状況は解消しておらず、むしろ深刻化している。加えてこの10年間に、初版刊行時には誰も想像すらできなかったほどすさまじいスピードで、数々のグローバル・トレンドが新たに生まれてきた。 以下に、そのすべてではないにせよいくつかを取り上げる。 ■創意工夫に満ちた新鮮なソリューションを求める声の高まり 医療、教育、金融、エネルギー、環境、行政など、生活に欠かせない多様な分野に目を向けただけでも、需要が大きいにもかかわらず資金や予算は乏しい実情が見えてくる。この10年間に、これらの分野すべてが厳しい批判にさらされてきた。 これほど多くの業界やセクターにおいて組織の戦略が根本的な再考をせまられるのは、歴史上でも稀な事態である。それら組織はみな生き残りをかけて、コストを削減しながら革新的な価値を創造するために戦略を再考しなくてはならず、その必要性は高まってきている。 ■ソーシャルメディアの普及と影響力の拡大 いまとなっては信じ難いが、2005年当時は、企業は自社の製品やサービスなどに関して世間に流布する情報のほとんどを管理していた。しかしそのような時代は幕を閉じた。各種ソーシャルネットワーク、ブログ、ミニブログ、動画共有サービス、一般人によるコンテンツ、評価サイトなどが世界のほぼ全域で利用できるようになり、個人と組織を比べると前者が以前よりも力を強め、個人の意見の信頼性も高まった。 この新しい現実の犠牲者ではなく勝者になるために必要なのは、かつてないほど卓越した製品やサービスを提供することである。そうすれば人々は、非難ではなく賛辞のツイート、五つ星の評価、「いいね!」のクリックなどを行い、お気に入りとしてソーシャルメディア上で紹介したり、感激してブログに書いたりしてくれる。世界のほぼ全員が「拡声器」を持つ現状では、二番煎じである事実を隠したり、誇大広告をしたりしようにも、すぐに見破られてしまう。 ■需要と成長の中心地の将来的な変化 最近では、今後の成長市場としてヨーロッパや日本を挙げる人はほとんどいない。アメリカでさえ、世界最大の経済大国としての地位を保ってはいても、今後の成長見通しに関してはあまり有望視されなくなっている。 今日ではむしろ、ブラジルのような国はもとより、中国やインドなどが最上位に挙がる。この3カ国はいずれも、過去10年で世界経済の上位10傑に名前を連ねるようになった。 ただし、これら新興経済大国は、従来の経済大国とは異なり、歴史上、各国から注目を集めたり、世界中で生産される製品やサービスの消費を期待されてきたわけではない。人口は膨大であるものの、一人当たりの収入は先進国のように高くはなく、増加傾向にあるとはいえ、依然としてきわめて低い水準にとどまっている。したがって、これらの国々の消費者に購入してもらえるように、安価な製品やサービスを提供することが、かつてなく重要になってきている。 ただし、勘違いをしてはいけない。安ければそれでよい、というものではないのだ。新興経済大国の膨大な数の国民もまた、インターネット、携帯電話、テレビのグローバル・チャンネルなどに接する機会が増えて、洗練度と、要求や期待の水準を高めている。知識や判断力を蓄えつつあるこれら顧客の心をとらえ、財布の紐を緩めてもらうには、差別化と低価格の両方が求められる。 ■グローバル・プレーヤーになるための期間短縮と難易度低下 従来、大手グローバル・プレーヤーといえば日米欧の企業が中心だった。ところが、状況は急変している。過去15年でフォーチュンのグローバル500社に占める中国企業の数は20倍超、インド企業は約8倍、ラテンアメリカ企業は2倍超に増加した。 この事実が示すのは、これら大規模な新興経済国には、開拓すべき膨大な新規需要が眠っている、という点だけではない。トヨタ自動車、ゼネラル・エレクトリック、ユニリーバに引けをとらないグローバル企業を目指して、新たなライバル企業がひしめき合っている可能性もまた、読み取れるのだ。 ただし、新興市場の企業だけが躍進しているのではない。これは大きな変化のちょっとした前兆にすぎない。ここ10年というもの、根本的な変化を受けて世界のほぼどこからでも、低コストで簡単にグローバル・プレーヤーを目指せるようになっている。 この潮流はけっして軽視してはならない。いくつかの事実を考えてみたい。ウェブサイトを小さいコストで簡単につくれるため、どのような企業でも世界に向けて物販を行える。どこの国の人々もクラウド・ファンディングによって資金を調達できる。Gメールやスカイプの登場により、コミュニケーションのコストが劇的に低下した。ペイパルなどを利用すると、低コストで速やかに安心して取引を行える一方、アリババのようなサイトを使うと、簡単でしかも迅速に世界中の売り手を検索、評価できる。しかも、無料の検索エンジンにより、世界中の企業についての情報を得ることも可能だ。世界に向けて広告を打つ際にも、ツイッターやユーチューブを活用すれば、コストをかけずにマーケティングができる。 グローバルに事業展開するための初期コストが小さいため、世界の津々浦々の新規参入者がグローバル市場に参入して、モノやサービスを売る事例が増えてきている。もちろん、これらの潮流によってグローバルに事業を展開するうえでの障壁がすべて低くなるわけではないが、グローバル競争が激化するのは間違いない。参入者があふれ返るこの市場で揺るぎない地位を築くには、バリュー・イノベーションを通して創造性を発揮する必要がある。 * * * 今日では、誰もが大きな脅威と機会に直面している。ブルー・オーシャンを追求するための手法とツールを提供することにより、それらの課題に対処して事業機会を生み出すうえでの助けとなり、みんながより豊かになればよいと願っている。 結局のところ、戦略とは企業だけのものではない。芸術団体、非営利組織、公的セクターなどあらゆる組織や人、さらには国にも寄与するものなのだ。ぜひ筆者たちと一緒にこの旅に加わっていただきたい。世界がブルー・オーシャンを必要としていることは間違いない。
W. チャン・キム,レネ・モボルニュ