社歴を重ねた実務家社長が戦略で暴走する理由 「既存事業のテコ入れ策」ばかり見えすぎる罠
それではまずいと考え、本書を送り出すこととしました。 水面下の壮絶な駆け引き このところ将棋観戦が格段に面白くなりました。 セミプロのユーチューバーたちが、棋譜に現れなかったシナリオを終局後に解説してくれるので、水面下の駆け引きが観戦者にもわかるようになったのです。 彼らがあぶり出した光景は、壮絶な格闘技以外の何物でもありません。 経営も同じです。大正製薬の上原正吉は次のように語っています。 商売は戦いである。ただ、この戦いは進行がきわめて緩慢だから、なかなか戦っているという実感を持ちえない人が多い。(中略)じりじりと本人たちの気づかぬままに進行し(中略)きわめて深刻な勝負がつく。
戦略は、競合や顧客に知られると不都合なことが多いため、どうしても水面下に潜りますが、それを推し量って部外者に理解できるようにしないと、戦略論にはなりません。 推量は外れるリスクと背中合わせですが、水面下の戦いから学ぶには、取るに値するリスクでしょう。「実戦」は、こうした水面下の駆け引きを主体とする点で、水面上の「実践」と大きく異なります。 戦略と似て非なる概念に管理があります。 ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチは、戦略は“do the right thing”、管理は“do everything right” を使命とすると、ハーバード大学のMBA在学生に向かって1985年に説きました。
■「戦略」と「管理」の違い 戦略は事業のツボを外してはダメ、管理は部下のミスを逃してはダメということです。 それに続くオチは、管理ができる人材は掃いて捨てるほどいる、戦略ができる人材は虫眼鏡で探さないと見つからない、でした。 ウェルチが主張したとおり「戦略」と「管理」は異なるタイプの人を要するとしたら、管理者として才を発揮した人のなかから経営者を選ぶと「経営」は「運営」に化けてしまい、戦略は機能不全に陥ります。