社歴を重ねた実務家社長が戦略で暴走する理由 「既存事業のテコ入れ策」ばかり見えすぎる罠
そこで、本書では「経営戦略の実戦」と「運営管理の実践」を厳密に区別します。皆さんには、運営管理の達人になってしまう前に戦略を学びなおしてほしいのです。 戦略と言えば「一呼吸おいて少し頭を働かせた意思決定」程度の軽い用例が目立つなかで、本書では経営戦略を限定的に定義します。 経営戦略の定義 次の定義にそぐわない打ち手は、すべて戦術と見なしてください。 経営戦略=限られた経営資源の非可逆、非可分、非合理な配分
定義中の経営資源とは、ヒトとカネのことです。モノや情報を含める人もいますが、モノはカネで買えます。情報は共用・共有するもので、配分できません。 次に「配分」にかかる修飾句ですが、人員の配置と予算の配分を決めれば何でも戦略になるかと言えば、違います。いつでも元に戻せる可逆な配分や、小出しにできる可分な配分、そして誰から見ても合理的な配分では、同業他社に決定的な差をつけることなどできません。 ちなみに、「非合理」は常人の「理性や知性を越える」という意味で、道理や理屈に従わない「不合理」とは区別します。
さらに、本書では、戦略の「成功」を10年から25年の超長期で捉えます。 ■超長期で戦略を見極める 短期の成果に引きずられると「これも戦略、あれも戦略」となってしまいますが、超長期で成否を見極めれば、「これが戦略」という決定版が浮かび上がってくるのです。 上記の「経営戦略」の定義は、超長期の視座を前提とすることに注意してください。 最後に、基本フレームワークを掲げておきます。 業績は、ノイズの影響を受け、管理ミスに足を引っ張られますが、基調は需要や供給を左右する外部環境によって決まります。
もちろん、外部環境に翻弄されてばかりでは能がありません。 それゆえ、外部環境と業績数値の間に介在する経営戦略が、脚光を浴びるのです。 その戦略は長いプロセスで、最上流の時機読解を日々の作業とし、論理立てを経て、資源配分に結実します。
三品 和広 :神戸大学大学院教授