公共政策において民意はどこまで尊重されるべきなのか――多数の意見と少数の意見
公共政策における「民意」とは?
公共政策の設計・決定・実施にあたっては、「民意」に沿わなければならないと言われている。私が専門とする公共政策学では、民意は人々の政治的な意見・思い・意向という程度の曖昧な定義しか与えられていないが、一般的には選挙の結果を指すと考えればよいだろう。選挙の結果を受け、民意の代理人である政治家が政策を作ることになる。 しかし、選挙だけで民意を反映できるわけではない。「ここに道路を通すべきか」といった個別テーマについての直接的な住民投票は行われるし、憲法改正の国民投票も民意の表出の一つである。また、2015年に国会で可決・成立した新安保法制への反対集会に12万もの人が国会議事堂前に集まったように、デモも民主主義国家の民意の表出方法として認められている。こうしたさまざまな方法で表れる民意を把握し、政策を立案・実行していくというのが近来の政策遂行の流れである。 欧米では熟議的な世論調査も行われている。電話で答えうるようなものではなく、無作為抽出した市民が集まって討議し、自分の態度を決めるという方法だ。日本でも少しずつ広まっている。 同時に、民意には移ろいやすい面がある。衆議院議員選挙で勝った政権はその後4年間、政治を任されるが、少し時間が経つと支持されなくなった、というようなギャップがしばしば起こる。そのギャップが埋めがたくなったとしても、選挙を毎日行うわけにはいかず、新たな民意が示されるには次の選挙まで待たなければならない。 現在ではSNSによってそのギャップをかなり可視化できるようになった。そこで、選挙は民意を集約する方法としては時代遅れだという意見が出ている。例えば、経済学者の成田悠輔氏は著書『22世紀の民主主義』で、民意を迅速かつ正確にリアルタイムで把握し、選挙よりもアルゴリズム(正解を引き出すための一定の手続き、または思考方法)によって政策を決定してはどうかと提案している。