沿線自治体が「JR西日本株」を続々購入! 京都・亀岡市は1億円分、なぜ彼らは“物言う株主”を目指すのか?
真庭市は7月に3万4000株を取得
中国地方にもJR西日本株を取得した自治体がある。岡山県北部の山間部に位置する真庭市だ。2024年度一般会計当初予算に取得費を盛り込み、7月に約1億円分に当たる3万4000株を購入した。 真庭市は姫路駅(兵庫県姫路市)と新見駅(岡山県新見市)を結ぶJR姫新(きしん)線が通る。姫新線の岡山県内3区間は2023年度の輸送密度が111~661人。国の再構築協議会で存廃協議が始まってもおかしくない厳しい数字が並ぶ。 中国地方では3月から中国山地を通って新見駅と広島駅(広島市南区)を結ぶ芸備線がJR西日本の要請で再構築協議会での存廃協議に入った。真庭市は姫新線の存廃協議入りに強い危機感を持つ。株主となって発言力を高め、路線維持を図るのが狙いだ。 真庭市の中心駅である久世駅は平日の日中、上下線とも運行間隔が3時間近い時間帯がある。真庭市くらし安全課は 「市民が普段使いできるダイヤでない。路線維持とともに、こうした点の改善も株主として訴えたい」 と強調した。亀岡市や真庭市の動きに対し、JR西日本は 「一株主の提案が必ずその通りになるわけではないが、沿線自治体は重要な利害関係者であることから、丁寧に対応する」 とコメントした。
経営判断への影響は望み薄か
自治体が相次いで株式取得に動いた背景には、完全民営化したJR西日本が公共交通の役割より 「利益重視に軸足を動かした」 と感じていることがある。利用促進の話し合いでJR西日本が今後のあり方協議を迫る場面が増えてきた。設備投資がなく、年代物の古い施設が現役の路線もあちこちに残っている。 人口減少時代を迎え、利用促進を進めても簡単に乗客を増やせるわけでなく、将来はもっと厳しい。JR西日本からすると、国鉄改革の時代なら 「即廃止」 してもおかしくない状態まで路線を維持してきただけに、公共交通の役割を十分に果たしてきたという自負があり、これ以上投資しても見返りがないと判断しているはずだ。 「株主利益」 という言葉もしばしばJR西日本の口から出るようになった。JR西日本の発行済み株式は4月現在で約4億8800万株、時価総額約1兆3000億円に上る。株主への利益還元に敏感な外国法人などの株式保有比率は33.8%。経営陣に利益確保を求める圧力が強いことは想像できる。 人口約4万人の真庭市や約8万6000人の亀岡市が取得できる株式数には限界がある。株主総会の議決を左右するほどの株式を小規模自治体が単独で保有するのは困難で、赤字路線の存廃など大きな経営判断に影響を与えるのは難しいとみられる。真庭市くらし安全課も 「株主になり、すぐに状況が変わるとは考えていない」 という。大阪市や京都市が株主になっている関西電力では、両市が脱炭素や脱原発を求める株主提案をしてきたが、ことごとく否決されている。大阪市環境局は 「提案の趣旨と一致する対応を実現できた事例はあるが、定款の改定を必要とする株主提案を通すのは難しい」 と振り返る。だが、株式取得で自治体の本気度を世間にアピールし、JR西日本に圧力をかける効果はありそうだ。真庭市はJR西日本株を取得する仲間を増やし、小さな声をもっと大きくしたいと考えている。 真庭市や亀岡市に続く自治体は現れるのだろうか。
高田泰(フリージャーナリスト)