バイデンとトランプが宣誓に使った聖書は「別物」だった…アメリカ社会「分断」の根底にある“ふたつの聖書”
今回もまた激戦がつづくアメリカ大統領選挙ですが、どちらの候補が勝利しても就任式で必ず行うのが「聖書に手を置いての宣誓」。ですが、日本大学教授の松本佐保氏によれば、この宣誓で使う「聖書」は、じつはいつも同じものとは限らないそうです。 「黒人バプティスト教会」に属するハリス氏と「カルヴァン派の長老派」のトランプ氏。ふたりの背景にある宗教的な事情を、松本氏に聞きました。 ※本稿は、松本氏の共著『分断されるアメリカ』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
■キリスト教の解釈の違い、信仰心の違いが生み出す分断 ――基礎的で根本的な質問ですが、アメリカの分断において宗教は大きな要因なのでしょうか? 松本佐保氏(以下、松本氏) 宗教には、大きくふたつの分断があります。ひとつはキリスト教に関しての解釈の違いがあります。 そして、もうひとつは、若い人たちの間でキリスト教はそこまで重要じゃないという信仰心の薄い人たちが出てきている状況です。非常に信仰心が篤い人と、宗教は二の次だという人の分断があります。
――そういう分断の中で、カマラ・ハリスの宗教的立ち位置は、どのようなものなのでしょうか? 松本氏 アメリカでは宗教による分断があるだけではなく、宗教以上に人種による分断があります。キリスト教会もバプティストのグループはプロテスタントですが、黒人教会と白人教会が別々に発展してきました。最近は、人種で教会を分けるのはおかしい、キリスト教は人種で人を分けていない、という議論が起きていますが、それでも、黒人教会と白人教会は分かれています。
カマラ・ハリスさんはインド系ですが、父親がカリブ系であったので、長い間カリフォルニアにある黒人バプティスト教会に所属していました。現在、その教会に通っているのかまではわかりませんが、そこの主任牧師はブラウン牧師という方で、公民権運動を指導したキング牧師の直弟子です。 彼女は民主党なので、政治に宗教を持ち出すことはないでしょうが、宗教的には、そう理解されています。 ■「公民権運動」と「黒人バプティスト教会」