病気や怪我、家族の不幸…悲惨な状況はいくらでもあるが、気持ちを落ち着かせるための「老子のことば」
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
すべては比較の問題
高速道路でも渋滞するとイライラします。となりのレーンが速く進むと、よけいにイラついて、無理な車線変更をして、あとでもとのレーンのほうが速く進み、歯ぎしりをした経験は私にもあります。 渋滞したときはできるだけとなりのレーンは見ず、ほかのことを考えて、渋滞を頭から追い出します。すると、いつの間にかスムーズに走り出します(私はたいてい小説のプロットを考えます。いいアイデアが浮かぶと、イライラしない上に、時間も無駄にはならず、得をした気分になれます)。 ものは考えようで、同じ渋滞でも、一般道だと車が多い上に信号待ちもあるし、右折車で車が詰まることもあります。それに比べればダラダラとでも動いているほうがましですし、電車だと座れないこともあるし、駅から歩かなければならないので、ずっと座っていられる車のほうが楽でしょう。 私の親戚の母親は、娘が統合失調症の疑いで自殺未遂をしたあと、学歴や容貌や進路に関する希望はいっさいなくなったと言っていました。生きていてくれるだけでいいと、心底、思ったからだそうです。 私も妻の乳がんがわかったとき、かなり動揺しましたが、少し落ち着くと、乳がんならもっと進行の速い臓器のがんよりましだったと思えるようになりました。仮に進行の速いがんになっても、もっと症状の重い難病もあるし、難病のほかにも悲惨な病気や怪我、家族の不幸もたくさんありますから、気持ちを落ち着かせる方法はいくらでもあります。 『老子』の第二章には次のようにあります。 難易相成 長短相形 高下相傾 (難と易は相成り、長と短は相形れ、高と下は相傾く) むずかしいとかやさしいとか、長いとか短いとか、高いとか低いとか、いずれも比較の問題で、絶対的なものはないということです。いろいろ悩む人は、自分でよりよいものと比べて悩んでいるともいえます。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)