最大派閥の無責任体質はどこから来たのか 解体状態の安倍派、ちらつく森元首相の影【裏金政治の舞台裏③】
自民党派閥パーティー裏金事件の元凶となった安倍派(清和政策研究会)。既に所属議員は要職から一掃され、派閥の解散決定を経て、解体状態となっている。最近では安倍派議員から岸田文雄首相の退陣論も出た。一連の無責任体質はどこから生まれ、かつて栄華を誇った安倍派はどこへ向かうのか。取材を続ける記者が振り返った。(共同通信裏金問題取材班=高松亜也子) 【写真】岸田首相、「増税クソメガネ」に苦笑 「名前が進化したとのことだが、承知していない」
▽あの一言から始まった 昨年11月30日夕刻、安倍派(清和政策研究会)の担当記者が急きょ、衆院第2議員会館の塩谷立座長(当時)の自室に集められた。ある発言を撤回するためだ。 先立つこと5時間前、塩谷氏は記者団の取材に応じた。派閥パーティー券の販売ノルマを超えた売り上げを派閥から議員側にキックバック(還流)する慣習があるのかどうかを問われ「そういう話はあったと思う」と語ったのだ。 現在ではキックバックの裏金化は周知の事実だが、当時この発言は永田町に大きな波紋を広げた。暗黙の了解が表面化した瞬間だったからだ。安倍派は過少記載の理由について「名寄せできなかった。あくまで事務的ミスだ」と強調し、派閥の「故意性」「組織性」は否定していた。その事なかれのシナリオを崩したのが塩谷氏の発言だった。 銃撃死した故安倍晋三元首相の後継会長を置かず「安倍派5人組」を中心とする集団指導体制へ移行したのは昨年8月。塩谷氏は座長として事実上の責任者に就いていた。
夕刻、疲れた表情で現れた塩谷氏は、キックバックの慣習について「事実を確認している訳ではない」と前言を翻した。記者団は引き下がらず、「どうしてか。昼の段階で3回やりとりした上で、それでも『還流はあったと思う』と述べたではないか」とただした。塩谷氏は苦しい表情で「曖昧な話だった。誤解を与えたから撤回する」と繰り返すばかり。奥歯に物が挟まったような言いぶりに後味の悪さが残った。 ▽特捜部を本気にさせてしまう 5時間の間に何があったのか。取材すると、安倍派5人組の一人がすぐ訂正するよう塩谷氏に迫ったのだという。その理由を聞いて驚いた。「東京地検特捜部が本気になってしまう」。根拠不明のこの情報もすぐ広がった。 発言撤回の翌日となる12月1日、報道合戦の号砲が鳴った。朝日新聞が1面トップで「安倍派、裏金1億円超か/パー券不記載、立件視野/ノルマ超分、議員に還流/東京地検特捜部」と報道した。「裏金」をキーワードとした報道各社の取材合戦が過熱した。想定より早い展開だった。