レーサーレプリカブームの最中にヤマハが放った、「アンチレプリカ」の旗手SDR
美しいトラスフレームは、軽く強靭な車体を生み出した
SDRが採用していたトラスフレームは、今でこそ一般的になった感があるが、当時トラスフレームを採用しているのはドゥカティなどの高級外国製バイクくらいのものであった。国産車ではアルミフレームが主流になっており、スチール製で溶接箇所が多く、生産性の悪いトラスフレームなど見向きもされていなかった。しかし、このスチール製のトラスフレームがアルミやカーボンのフレームに少しも引けをとっていないということは、ドゥカティの916系スーパーバイクレーサーや、ドゥカティやKTMのモトGPマシンが後に証明している。 SDRの外観上の一番の特徴は、TC(Triplex Composite=ニッケル、スズ、コバルトの3元素を用いた)メッキ仕上げのトラスフレームだ。このフレームは乾燥重量105kgという非常に軽量な車体を生み出し、パワーウエイトレシオでは乾燥重量139kgであった初期型のRZ250を完全に凌駕していた。もうひとつのフレームの特徴として、アルミ製のエアクリーナーボックスをフレーム構造の一部としていることだろう。このエアクリーナーボックスはシートレールの一部になっており、車体の剛性アップや軽量化に貢献している。
しっかりと作り込まれた、贅沢な足周り
足周りを見ても、今では考えられないほどお金がかけられているのが見て取れる。スイングアームはフレームと同様のメッキ仕上げが施されたトラスリアアームで高い強度を持たせ、リアサスペンションにはヤマハ独自のリンク式サスペンションをセット。ホイールは前後17インチの中空スポークアルミホイールを採用し、ブレーキはフロント267mm、リア210mmのローターを採用したディスクブレーキが与えられていた。タイヤサイズはフロント90/80、リア110/80とレプリカ勢よりも細めに設定されていたが、このタイヤサイズはSDRの軽快さを生み出す重要なファクターであった。
挑戦できる環境が生み出した、唯一無のバイク
そんなトラスフレームを使ったSDRの車体の印象、それは誰に聞いても「薄い」という答えが返ってくるほどスリムであった。フルサイズの50ccバイクとほとんど変わらない車格に、前述した高性能エンジンを搭載したSDRは、鋭いコーナリング性能と加速力を武器に45PSのレーサーレプリカを峠道で追い回すに充分な性能を備えていた。しかし、アルミフレームも45PSのエンジンももたないSDRの魅力は10代の若者たちに上手く伝わらず、一部のバイクマニアにのみ受け入れられるという結果となり、1988年には生産中止となってしまった。 ただ、改めてSDRというバイクを詳細に見ていくと、当時のヤマハの開発者たちの意気込みを随所に感じることができる。バブル経済、そしてバイクブームという大きな渦の中で豊富な資金を得て、ヤマハはバイクの新しい形を模索したのであろう。「軽く・速く・美しい」、SDRという唯一無二の存在、それは時代を超えて本物のバイクマニアの心を掴むパッケージなのではないだろうか。
ヤマハSDR主要諸元(1987)
・全長×全幅×全高:1945×680×1005mm ・ホイールベース:1335mm ・シート高:770mm ・車重:105kg(乾燥) ・エンジン:水冷2ストローク単気筒ケースリードバルブ 195cc ・最高出力:34PS/9000rpm ・最大トルク:2.8kgf-m/8000rpm ・燃料タンク容量:9.5L ・変速機:6段リターン ・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク ・タイヤ:F=90/80-17、R=110/80-17 ・当時価格:37万9000円
後藤秀之