「私は腹が立つとマンガを描く」元原子力安全委員長が「マンガ」を描く理由
「著作物として出版するとなると、ただ感じたことを吐き出すというわけにいかず、それなりの検証作業などが必要です。その点、講演ですともう少し楽なのですが、短い時間にあれもこれも話すことはできず、どうしても不完全燃焼気味になります。その点マンガですと、私情を入れ、人の悪口も含め、感じたことをすべて吐き出せます。そんなことから私にはマンガという強い味方があったと気付いて描き始めました」
「腹がたつとマンガを描きたくなる」
班目氏にとっては常に客観的に根拠を示して書く、という普段の学者としての論文とは違い、感情や私情を交えて表現できる方法として、「マンガ」が必要だったようだ。班目氏は「マンガに描かれていることは私が感じたことであって、それが事実だと言い張るつもりはない」と断った上で、「原発事故後、原子力安全委員会の役割が誤解され、また原子力の基礎をご存知ない方から私に言わせれば根拠のない非難を浴びせられた」という。 作中では、そんな班目氏の感情的な叫びがあふれている。マンガには菅直人元総理とみられる人物が度々登場するが、「いまだにあの顔を思い出すだけで気分が悪くなる」として顔がない状態で描かれる。メディアや政治家に追及され、ときに「根拠のない批判」を浴びた体験を、個人的な怒りや呆れ、皮肉、ユーモアを交えながら描く。 「原子力分野の不祥事のマンガなどもそうですが、私は腹が立つとマンガを描きたくなります。マンガを描くと気晴らしになるのです。これは絶対発表できないなという作品もいくつか持っています」
マンガの裏にある重い現実を忘れてほしくない
インターネット上では、そんな班目氏の作中での奔放な政治家批判などがクローズアップされ、話題を呼んだ。原発事故後に班目氏が直面した事故対応のあり方を、マンガにして広く公開することで、班目氏がマンガを読んだ人々に伝えたかったことは何だったのか。班目氏は語る。 「一番伝えたいことは、原発事故のせいで今なお10万人近くの人が避難生活を余儀なくされているという現実です。それを忘れないようにしてほしいというのが第一です。マンガなので読み飛ばすことは簡単ですが、その裏に重い現実があることを忘れていただきたくはありません」