「近視」に関する説明で、間違っているものは以下のうちどれでしょう？

　この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ＆A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください！ 【関連画像】図1　視力1.0未満の子どもの割合 ●「近視」に関する問題 【問題】「近視」に関する説明で、間違っているものは以下のうちどれでしょう？ （1）日本の中学生の6割以上は裸眼視力が1.0に満たない （2）近視が強い人は重大な目の病気を発症しやすい （3）近視の進行を抑える方法はない

　正解（間違っている説明）は、（3）近視の進行を抑える方法はない　 です。 ●日本人の近視は増え続け、中学生の6割以上に 　近視は、眼球の奥行き（目の表面にある角膜から網膜までの長さ；眼軸長）が長くなり、目の中に入った光の焦点が網膜の手前にずれて像がぼやけて見える状態のことを言います。近視人口は世界的に増え続けており、2050年には50％を超えると予測されています（＊1）。 　「近視の原因には、環境による影響と遺伝の2つがあります。特に強度の近視の場合は、遺伝が関係すると言われています。しかし、遺伝子はそう簡単に変わるものではありません。にもかかわらず近視の人が急激に増えていることから、近視の進行には環境要因が大きく影響すると考えられます」。筑波大学医学医療系眼科准教授の平岡孝浩氏はそう話します。 　最大の環境要因は、スマートフォンやタブレットなどのデジタルツールの普及によって、近業（近くを見ること）の時間が大幅に増えたことです。「特にコロナ禍ではパソコンやスマホ、テレビなどを視聴する時間（スクリーンタイム）が非常に長くなり、それに伴って近視の子どもが増加しました」（平岡氏）。裸眼視力1.0未満の子どもの割合は小学生で4割弱、中学生では6割以上、高校生では7割以上と、過去最高となっています（図1）。 ●「学童期の近視は放置してはならない」が近年の考え方 　古くから、「近視は病気ではない」「近視になっても矯正すればいい」と考えられてきましたが、近年、強度の近視（＊2）は失明に至る病気のもとになることが分かってきました。日本における失明原因の第1位である緑内障は、近視が強い人ほど発症する確率が高くなります。網膜がはがれる網膜剥離も、近視の強い人に起こりやすく、治療しないと失明してしまいます。強度近視から発生する、近視性黄斑症という病気もあります。近視は放置してはならない病気で、学童期のうちにできるだけ進行を抑えることが重要――。これが現在の眼科医療の考え方となっています。 　近視を抑制するために、真っ先にするべきことは、スクリーンタイムを減らすことです。「30cmより近くで見る近業が近視を進めやすいという報告もあるので、タブレットやスマートフォンなどは目から30cm以上離すことも大切です。目を使い続けることも良くないので、30分くらい近業をしたら休憩し、目を休めましょう」（平岡氏）。屋外活動も重要です。「理由は諸説ありますが、屋外で日光を浴びると近視が抑制されることは間違いない事実とされています」（平岡氏）。 　近視を抑制する治療も進化しています。「アトロピンという点眼薬を用いると近視の進行が抑制されることが明らかになり、海外では0.01％の低濃度で近視抑制治療に使われています。日本では未承認ですが（＊3）、自費診療で行う眼科もあります」と平岡氏。 　近視の進行を抑える方法は、アトロピン点眼のほかに、就寝中にハードコンタクトレンズをつけるオルソケラトロジーや、遠近両用の特殊なソフトコンタクトレンズをつける多焦点ソフトコンタクトレンズなどがあります。「日本人の子どもの場合、眼軸長の伸びが停止するのが18～19歳くらいなので、近視進行の抑制治療は主に未成年者を対象としています。眼軸長が伸びきる前に近視進行抑制をするのが効果的なのです」（平岡氏）。近視の急増を背景に、近視進行抑制の研究は今後ますます活発化しそうです。 ＊1　Holden BA, et al. Ophthalmology. 2016 May; 123(5): 1036-42. ＊2　メガネやコンタクトレンズの度数が「－6D」（D；屈折度）を超えると強度近視と言われる。 ＊3　2024年2月28日に参天製薬が製造販売承認申請を行っており、現在承認待ち。 　※この記事は、「『近視は早めに進行を止める』が今の常識！　強度近視は失明に至る恐れも」（田中美香＝医療ジャーナリスト）を基に作成しました。