96歳ハンドメイド作家「誰かの役に立てたら」60年続けた絵画教室の後、羊毛フェルトの販売に挑戦。手作り作品が人気
年齢に関係なく好奇心旺盛で前向きな人は、どんな日々を送っているのだろうか。そのヒントを探るため、手作り作品や音楽に情熱を傾けるおふたりに話を聞いた(撮影=藤澤靖子) 【写真】羊毛フェルトの「ペットポートレート」作品 * * * * * * * ◆絵画教室で教えて60年 東京・港区のマンションの一室。壁には羊毛フェルトの動物や、色とりどりの花のコサージュ、リメイクした小粋なアクセサリー、バッグや彫刻など、さまざまな手作りの作品が飾られている。 その一つひとつを弾むような口調で説明してくれるのは、ハンドメイド作家の山下民子さん、94歳だ。 若い頃に開いた絵画教室を60年も続け、500人ほどに教えてきたという。ときには生徒たちとバザーを開き、福祉施設に寄付をすることもあった。 昔から社会貢献活動に関心が高かったが、2011年、東日本大震災の甚大な被害を見て、「被災地のために何か作って寄付したい」と考えた。 「子どもたちを励ましたいと考えて、最初に作ったのが『まけない(負けない)カルタ』。かつての絵画教室の生徒さんたちに描くのを協力してもらったんです。紙粘土で作った『猫のお雛さま』は、大変なときでも雛祭りを祝いたい方がいらっしゃるだろうと思って作りました」
その後、より多くの人に作品を届けたいと、87歳のときに、娘2人とネット通販のハンドメイド・ショップ「Tammys(タミーズ)」を立ち上げた。以来、売上金の一部を寄付し続けている。 さまざまな作品の試作を重ねるなかで生まれたのが、ふわふわの羊毛を専用の針でつついて繊維をからめる「羊毛フェルト」の作品だ。山下さんの手法は、フェルト生地の上に犬や猫、リスなどの動物や草花のモチーフを配置し、色とりどりの羊毛を刺してふんわり立体的に仕上げたもの。 これが注目されるようになり、次第に愛犬や愛猫を亡くした人から、「そっくりに作ってほしい」といったオーダーが入るようになる。写真をもとに依頼者と相談しながら制作したペットの肖像作品、羊毛フェルトの「ペットポートレート」が評判を呼んだ。 「単にそっくりに作っているのではなく、飼い主の方とワンちゃん猫ちゃんとの《思い》を形にするお手伝いができれば、と取り組んでいるんです」 実際に見せてもらうと、愛らしい表情のワンちゃん猫ちゃんが、額縁からいまにも飛び出してきそう。山下さんの作品のいちばんの特徴は、物語を感じさせる生き物の表情の愛らしさだ。 「完成品をお送りすると、『愛犬にそっくり。箱を開けた瞬間に目が合って、思わず涙が出ました』『いつもあの子が目に入るように、家具の配置も変えました』などという、うれしいお手紙をたくさんいただいて。お礼にと、地元のおいしいお米や野菜を送ってくださる方もいるんですよ。だから作っている私のほうが感動してしまうの」
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