50代からNISAは「いまさら遅い」? 老後資金の不安が解消する合理的な方法
「いまさら」という人は 自分の現実が見えていない
先日、新NISAで積み立てを始めたという20代の若者と話をしました。株式インデックスの平均的な利回りを年7%とし、この若者がこれから毎月2万円を積立投資したとすると、資産は20年で約100万円、30年なら2400万円以上になります。月2万円の投資でも、定年を迎える前に「老後2000万円問題」は解決できてしまうわけです。 こうした準備を当然のこととする若者たちが社会の中心を担ったときに、自分の老後について十分な備えをしていなかった高齢者を、自らの負担で積極的に支えようと思うでしょうか。障害などで自助努力が難しい人には公助が必要でしょうが、収入があるのに散財してしまったような「自己責任」を問われるケースでは、現役世代の視線はより厳しいものになりそうです。 40代、50代の読者の中には、「若者はともかく、定年が近づいてきた自分がいまさら資産運用なんて」と思う人もいるかもしれません。 しかし、日本人の平均寿命は現在でも男性81歳、女性で87歳を超えていて、今後さらに伸びると予想されています。 「人生100年時代」には、50歳は人生の折り返し点でしかありません。そう考えれば、シニア世代にも「長期投資」のための時間は十分に残されています。
「普通の日本人」こそ海外に投資するべき理由
では具体的にどのように資産形成すればいいのか。私が一貫して勧めてきたのは、株式への長期分散投資です。国債は国家が元金と利払いを保証した安全資産ですが、長期で見ればその収益率はインフレ率とほぼ同じ。金融資産を国債で運用すれば、物価上昇に保険をかけることはできますが、それ以上の資産形成はできません。 1967年に完成したファイナンス理論は、株式に分散投資することで、リスクあたりの収益率が最も高くなることを数学的に証明しました。 私が海外投資を始めたのは30年近く前ですが、当時は日本の証券会社で購入できるのは、日本を除く先進国の株式市場に連動する「MSCIコクサイ・インデックス」くらいでした。この10年のパフォーマンスは年率10%を超えているので、元本は17倍になったことになります。 日本株を除くのが合理的なのは、日本経済の未来を悲観しているからではありません。日本人のほとんどは、日本で働き日本円で給料をもらい、日本円で預金し、さらに住宅ローンを組んでマイホームまで購入していますから、日本円に対して過剰なリスクをとっています。 円資産しか持っていないと、円が大幅に下落したとき、資産の大半が毀損してしまいます。 それに対して資産の半分程度が外貨建てなら、現在のような超円安では外貨資産の価値が上がりますから、為替相場が大きく変動しても資産価値は変わらなくなります。 今流行りの「eMAXIS slim全世界株式(通称オルカン)」は、新興国を含む世界中の株式市場に分散投資できる、よくできた投資信託です。 S&P500はアメリカの主要500社の指標で、世界最高の投資家と名高いウォーレン・バフェットが勧める投資法として有名です。アメリカ市場は世界経済と連動していますから、世界株指数とパフォーマンスが大きく異なることはありません。 「アメリカ人がS&P500に投資しているのだから、日本人は日本株に投資をすべきだ」という人がいますが、いまや日本株は世界市場の5%程度しか占めていませんから、これでは分散投資になりません。 指数関数的に成長するテクノロジー分野に期待するなら、ハイテク企業やベンチャー企業が上場するNASDAQ市場のインデックスに投資するのも良い選択でしょう。 このように考えると、投資すべき金融商品は絞られてきます。これらを組み合わせてもいいですが、重要なのは、いったん積み立てを始めたら、それを20~30年、あるいは20代の若者なら50年続けること。これが、資産運用における最も合理的な戦略です。
橘玲(作家)