「嫌な仕事」 断っていいラインと心構えって? 意義がない仕事を減らしたい! カギを握る“ふわっとした空気感づくり”
「素」を偽ると、嫌な仕事が回ってくる
──嫌な仕事の断り方について「素でいること」の大切さも説かれています。 山本:仕事を依頼する側からすると、部下の適材適所に合わせて任せたいのが普通です。「この人はこういうキャラクターだから」「ああいう仕事をやりたがっていたから」と念頭に置いて、お願いしています。 ただ、仮に部下のほうが自分を偽っていたらどうなるでしょうか? 「自分はこのプロジェクトをめちゃくちゃやりたいです」と、実は思ってもいないアピールをしてしまう。そう聞いた上司は「ならば」と頼んだものの、結果として彼・彼女にとっては実は嫌で苦手な仕事が振られることにもなりかねません。 経営者や上司からすれば、部下が自ら話す情報や自己申告しか判断材料として持ってないわけですし、尊重もできるだけしたいです。ビジネスパーソンが自分を過剰に良く見せようとする傾向は、弊社が実施しているさまざまなアンケート結果からも出ていますが、「嫌な仕事」を招くきっかけとなることを知っていただきたいです。
面接でありがちな「キャリア合コン」
──採用面接でも応募者が自分を偽ってしまっているケースは多いと思います。 山本:面接に受かることをゴールにしてしまって、入社後に苦しむケースはよくあります。面接する企業側だって同じです。互いに「素」を隠したまま、よそ行きの態度のまま接してしまう。いわば「キャリア合コン」が流行ってしまっているのです。 一方、素の自分のまま面接に臨んだ人は、当然ですがカルチャーフィットした会社に入れます。その後も「僕はこの仕事はやりたいけれど、こちらはできません」と上司に伝えやすく、入社や転職の後も、無理なく働けると思います。 「嫌な仕事」と聞くと、それを依頼する相手を責めがちでしょう。ただ、そうではなく、こうして入口から自ら招いていないか。もう一度、職場での日頃からの振る舞いを見つめ直していただければと思います。
嫌に感じた仕事がキャリアを切り開くことも
──嫌だと直感した仕事を全部断ってしまったら、いわゆるセレンディピティ(予期せぬ出会い)も起きないのではないでしょうか。 山本:その通りです。書籍は一見、嫌な仕事を断るためのテクニック本のようですが実は「本当に断っていいの?」という問題提起もしています。 私は新卒ではトヨタで働きましたが、データサイエンス、統計学をどうしても学ばなくてはいけないことがありました。上司の声がけで、社内のコンペティションに参加することになったのです。 最初は嫌で嫌で仕方なかったです。ただ、取り組んでみたら「食わず嫌い」だったと痛感しました。やってみたら面白くて、すっかりはまってしまい、気がつけば朝まで統計学に打ち込んでいたこともあります。 この時の経験は今もデータサイエンティストとしての仕事に生きています。データがわかるコンサルタントができているのは、私が一瞬「嫌だな」と思った仕事から文脈が続いているのです。 結果論に感じられるかもしれませんが、「嫌な仕事があなたのキャリアを助ける」ことがあると、頭の片隅に置いていただければうれしいです。 仕事は、なんでもかんでも自動的に断るものではありません。 素でいることに加えて、「意義を感じられないとき」には上司とも率直に打ち明けられるコミュニケーションの土台を作っておく。こうして嫌な仕事の母数を減らしつつ、「こういうことができますよ」とポジティブにまわりに言っていけば、仕事の振られ方も受ける質も量も変わっていくでしょう。 文:箱崎了 デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio) 聞き手・編集:野上英文