台湾のまちづくりから日本は何を学べるか。都市計画のキーワードは「夜市」「流動」? 三文字昌也さんインタビュー
「道」に人が集まることで「街」になる
台湾の人々が街をどのように考えているかよくわかる例として、三文字さんは、1980年に出版された『中国人の街づくり』(郭 中端、堀込憲二 共著、相模選書 刊)という本を紹介してくれました。本の冒頭には、「道に人々が集まって市を開くことで、だんだん街になる」という「台湾の街の成り立ち」が描かれています。街の原型となるのは、道端に集まった露店商。そうして市が立ち人が集まり、儲かった人は露店から店舗を構え、うまくいったらビルを建てます。そこには、たくさん人が来て、ビルの前にまた露店が出る……その繰り返しで街が大きくなるというのです。 「これはもちろん極端な例ですが、前提として、『まちはみんなのもの』という発想があるのではないでしょうか。道路でもなんでも自分たちの生活をよりよくするために使えるものは使おうという発想が根底にあると感じます」(三文字さん) 例えば、その象徴的な事例が亭子脚(ていしきゃく)と呼ばれるアーケード空間です。 「亭子脚は、日よけや雨よけの歩道として設けられた場所ですが、民有地でありながら公共の歩道扱いされるなど、実際は、100%公でも100%民でもない曖昧な空間になっていて、露店が出たり、オートバイを置いたり、さまざまな使われ方をされています。問題が起きたら、政府が対応しますが、皆でうまく使っている限りは、特に問題にならない。台湾の象徴的な風景だと思います。日本の都市の場合、道路上に段差解消スロープを置いただけで、それが本当に危ないのか、支障がないかを考える前に反射的に通報する人がいますよね。もちろんルールとしては正しいのですが、日本人が街の公共空間に対して、なぜおおらかさを失ってしまったのか、それでむしろ失ったものもあるのではないかと考えることもあります」(三文字さん)
日本の都市計画に活かしたい柔軟な道路使用や文化財活用
日本の都市計画や街づくりに活かせるのはどんなところでしょうか。 「道路など都市空間の柔軟な利用のあり方を、いちばん学ぶべきだと思いますね。公共空間の利活用に関して、もっと流動性を持たせて積極的に使っても実は支障がないことも多いと思います。日本の道路占有許可は、交通を阻害するデメリット以上の公益性や価値がないと許可されませんが、裏路地など問題ないケースもあるはず。そのほかは、文化財の利活用ですね。研究者から、『台湾の文化財建築行政は日本の20年先を行っている』という声があるほど。文化財建築のリノベーション、再利用の成功事例が行政も民間もたくさんあります。使える補助金が多く、文化財をリノベーションしてお店を出す若い人も多いようです。資金面のハードルを下げる仕組みづくりも学びたいですね」(三文字さん)