「ナミビアの砂漠」山中瑶子監督の映画作り 「自分の気持ちを素直に話すようになったら、いいことしかない」
――無性に好きなシーンが、浮気相手に走って会いに行くところと、タバコを吸いながら坂を自転車で下っていくところ。物語に直接的に関係のないシーンも割とあったように思ったのですが、いかがですか。
山中:最初3時間もあったので、いくつかのシーンは落とす選択をしなければならず頭を悩ませましたが、ストーリーラインに関係のないシーンは、むしろ残そうと決めていました。そもそもこれは物語を展開させていく映画ではなくて、カナが今どういう状態にいるのかという、カナの在り方を見つめていく映画なので。他の監督だったら捨ててしまうかもしれないし、私も絶対的な理由があって書いたわけではなかったりするのですが、そういう無意識から出てきたものこそ大切にしたいと思って。自転車で下っていくシーンは、カメラワークも相まって気持ちがいいですよね。
――カナの、無表情な感じも好きです。
山中:無表情だけど体力ありそうな顔をしてますよね(笑)。
――逆に編集でシーンを削る際は、どういう判断基準があったんですか?
山中:何人かの発言が混ざっている受け売りですが、「映画になるべき素材というのは決まっていて、撮影の思い出を抱えているとカットする判断ができないから容赦なく捨てるべし」みたいなことを意識しました。カナを見つめるという大きな軸を基準に、不必要なものを見極めようとしましたけど、容赦なく捨てるのは難しかった。採用しなかったシーンも気に入っているものばかりです。2年後くらいに見たら「あと10分削れた」とか思いそうですが、今の私にとってのベストが137分でした。
映画作りで大切にしていること
――企画から映画を1本完成させるまで、対自分、対チームそれぞれで大切にされていることは?
山中:今までたくさんの人に迷惑をかけてきたので、こんなことを言うと怒る人もいると思うのですが……自分の心に嘘をつかないってことは大事なのかなと思います。企画の依頼を受けた時は、本当に頑張りたいと思うし、努力するんです。だけど、進めていくうちに最初の段階では分からなかったことが出てくるじゃないですか。それが、自分のせいだったり別の経緯だったり、理由はいろいろあれど、違和感を覚えたり、他の人が作った方がいいと思ったりしたら、勇気を振り絞って辞めてきました。逃げただけなんじゃないか?とか思って、自分は本当に駄目だなあと落ち込むことも多いですけど……でも、実際に自分が降りた後に他の監督によって手がけられた作品を見ると、「これが良かった」と思うんです。迷惑がかかるのは申し訳ないですが、作品のためにも違和感をそのままにしないで、辞める勇気を持っていようと思います。