「ナミビアの砂漠」山中瑶子監督の映画作り 「自分の気持ちを素直に話すようになったら、いいことしかない」
――対チームとの映画作りで大事にしていることは?
山中:自分に嘘をつかないということと似ていますが、まずこちらが素直になるっていうのは最近意識するようになりました。以前は、分からないと言うと「これだから若い監督は」と思われるような気がして、ものすごく構えていました。でも、どう思われてもいいというか、1人であくせくするのはムダな時間だと思って、分からないことは「分からない」と素直に言えるようになったら周りも助けてくれるようになって。若くて経験もないので知らないことばかりで当然ですしね。自分の気持ちを素直に打ち明けるようになったらいいことしかないって、今回は特に感じました。
――現場でも皆さんで活発にアイデアを出し合ったと伺いましたが、それはこれまでと違ったのでしょうか?
山中:ほぼ初めてのやり方でした。映画を志した当初は、例えばですけれどウェス・アンダーソン監督みたいに、衣装も美術も何もかもこだわって決めるのが映画監督たるものと思い込んでいたんです。でも、それだと考えることや、やることが多すぎて、寝られないし演出に集中できないと痛感して。それで、あまり詳しくないことは素直に委ねてアイデアをもらって、最終判断だけをするようにしていました。それで全然思ってもみなかったような提案が来ても楽しいし良いアイデアならば映画は豊かになるし、それは違うというようなことがあっても、こちらの伝え方の問題だなと思ってコミュニケーションを重ねるようになりました。
「昔は四六時中映画のことを考えていました」
――山中監督の作品は、小さなエピソード一つひとつにも心惹かれます。例えばハヤシが過去に中絶させた経験があることを知ったカナが、激しくハヤシと衝突。「お前には関係ない」という喧嘩のくだりで、まさに自分の怒りの根源はここにあったと気付かされたのですが、あのエピソードが生まれたきっかけは?
山中:脚本を書く最初の段階ではあまり難しいことは考えずに、バーッと思いのままに書くんですけど……後で整理していて考えたのは、もう変えることのできないどうしようもないことって世の中にはあるじゃないですか。自分がされたわけじゃないのに、ものすごく嫌で、腹立たしくて、だけど既に終わっていることで。そういうことにぶつかると、やるせなくて無力に感じるんですが、その感情を、どうしようもないからといってなかったことにしてしまいたくないという気持ちがあって。