「優等生」マイク・トラウトも普通の人だった 子供時代に家の中でサッカーをして怒られる
【元局アナ青池奈津子のメジャーオフ通信】「子供時代に一番やらかした失敗は、家の中で兄弟でサッカーをやっていた時かな。クリスマスの時期で、家には大きなクリスマスツリーがあったんだけど、僕らは暖炉をゴールにして遊んでいた。もちろん、火はついてなかったけどね。すると父がやってきて『おい、家の中で遊ぶのはやめなさい。ツリーに当たって倒れでもしたら、大問題だ!』と言ったんだ」 クリスマスで思い出すのが、マイク・トラウトと今季交わしたこの会話だ。付き合いはかれこれ10年以上になるが、実際はあいさつ以外で直接話す機会はあまりない。理由は2つあり、まずはデビュー当初からエリートの大スターで「なかなかつかまらない」ということ。もう一つは苦労してインタビューにこぎ着けても、若い時から注目されてきた者の宿命なのか、答えがいわゆる「優等生」で隙がない。 マイクらしさが伝わる「ここだ!」というポイントを見つけられず、あまり話したがるタイプでもない。無理に深追いするのも…と思いつつ、みんなが憧れる選手の一人でもっと話を聞いてみたい。 そのマイクが、クラブハウスのロッカーで“ガラ空き”だったことはある意味、今年のエンゼルスを象徴していたかもしれない。昨季まであれだけいた報道陣もドジャースに移り、起死回生を狙った今季はマイクをはじめケガ人が続出。クラブハウスはどんどん寂しくなっていった。 「小さい頃から外で遊ぶのが好きだったけど、スイミング、庭でウィッフルボール、ボウリングとかも好きだったし、友達とのビデオゲームも楽しかった」 そんな中でマイクと細やかな会話をできたことはとても新鮮だった。 「一番は野球だよ」「5、6歳で始めた時から大リーガーになりたかった。他のスポーツもやったけど、それは野球がうまくなりたかったから」「実際、他の競技が僕を助けてくれたんだと思う。野球だけでいっぱいいっぱいという状況にならなかったから。シーズンごとに、いろんなスポーツにチャレンジして楽しんだ。アメフトシーズンならアメフト、バスケならバスケ、野球なら野球。そういうバランスがあったから、情熱が薄まることがなかった」 話題が広がるというよりも、端的で謙遜を含んだ回答が多い。 「子供の頃から野球がうまかったのでは?」 「いつでも楽しかったから、野球が好きだった」 「学校の成績は?」 「両親が共に学校の先生だから、成績は良くないといけなかった」 「子供時代の自分を表す単語を3つ選ぶなら?」 「面白い、社交的、親しみやすい」 ここで「なんてパーフェクトな子供!」と返すと、マイクが笑う変化があった。「パーフェクトな人なんていないよ。僕も全く」「両親には常にリスペクトフルであるようにと教えられて育ったんだけど、駄々をこねたら部屋中駆け回ってじだんだを踏んでいたよ」。 そして幼少期最大の失敗には「9歳くらいの時に家でサッカーをしていて、クリスマスツリーを倒してしまったこと」を選んだ。ビデオゲームを取り上げられ、好きな遊びも数日間禁じられたそうだが、ある意味子供らしいかわいい事件を「最も怖くなった瞬間」と語ったマイクに、初めて彼の実直な生い立ちが見えた気がして親近感が湧いた。マイクも普通の人だった。 最近は新たな悩みもあるらしい。「息子ができて改めて両親の教えを思い出すよ。『いいんだよ。全部うまくいかなかったり、手に入らないこともあるさ。自分の持っているものを尊重し、決して当たり前だと思わないこと』と息子に言い聞かせている日々なんだ」。来年こそは、もう少し元気なマイクを見られますように。 ☆マイク・トラウト 1991年8月7日、米ニュージャージー州バインランド生まれ。右投げ右打ち、外野手。2009年のMLBドラフトで1巡目(全体25位)で指名され、エンゼルス入り。11年7月のマリナーズ戦で19歳11か月の若さでメジャーデビュー。12年に「トリプルスリー」を達成し、ア・リーグの新人王を獲得。19年に当時の米スポーツ史上最高額となる12年総額4億2650万ドル(約470億円=契約時)を締結。オールスターに11度出場、リーグMVPを3度受賞。188センチ、107キロ。
青池 奈津子