いつもの煎茶を「玉露」に変える、驚きのお茶の淹れ方があった
おいしく飲める最適な温度は?
はじめの方法で淹れたお茶は、熱いお湯を急須に入れて蒸らすことなく、急須をクルクル回しながらすぐに茶碗に注いでいますから、苦味や渋味が強いだけで雑味があり、うま味が十分に抽出されていないお茶で、どちらも決しておいしいお茶ではなかったはずです。 お茶のおいしさというのは、「甘味(うま味)」「渋味」「苦味」という3つの成分のバランスで決まります。甘味(うま味)の元になっているのはアミノ酸(テアニン)、渋味はカテキン、苦味はカフェインです。 アミノ酸は、使用するお湯の温度に関係なく低温でも抽出されますが、カテキンとカフェインは、お湯の温度が上がるにつれて多く抽出されるという性質を持っています。ですから、熱いお湯で淹れるほど、カテキンやカフェインが多く溶け出し、渋味や苦味が強いお茶になるのです。 お茶の種類によって、そのお茶らしい味わいをもっとも豊かに楽しめる適温は異なります。 たとえば、やわらかい新芽(一番茶)から作られるお茶の王様、「玉露」に適したお湯の温度は60℃。カテキンやカフェインの抽出を抑え、豊富に含まれるアミノ酸の甘味とうま味を存分に引き出した味わいが魅力のお茶です。 これに対し、成長した生葉(二番茶)から作られる「番茶」や「ほうじ茶」は、茶葉が硬いため、熱湯で淹れることでしっかり茶葉を開かせ、茶の成分を抽出させることが必要になります。 お茶の味は甘味(うま味)、渋味、苦味という3つの成分で構成されていること、お茶の種類によっておいしく抽出できる適温があるというのは、緑茶に限らず、紅茶やウーロン茶でも同様です。 緑茶、紅茶、ウーロン茶は、香りや色、味わいもまったく異なるお茶ですが、元をたどると、じつはすべて同じ生葉からできているのをご存じでしょうか。それぞれの製造過程で茶葉に化学変化が起こり、「うまみの緑茶、渋みの紅茶、香りのウーロン茶」と言われるような、そのお茶らしい特徴が生まれます。 私はお茶の研究を始めて50年になりますが、今なおその興味は尽きず、茶成分や滋味の科学的な分析や、茶の樹(原種)のDNA解析、茶のルーツを探る調査などを続けています。最新の研究から「お茶のおいしさ」とは何なのか?という秘密に迫り、このほど上梓したのが『お茶の科学』です。 ここでご説明したような「デキる人」と言われるお茶の淹れ方を、本書では緑茶だけでなく、ウーロン茶や紅茶、ティーバックのお茶でも、より詳しく科学的な説明も交えてまとめています。 自分で淹れるお茶の味が今ひとつと感じていた方は、水の選び方や茶葉の保存方法なども踏まえて、なぜお茶がおいしくなるのか、不味くなるのかをさまざまな角度から理解して頂けることでしょう。 また、お茶の色や風味はいつどうやって作られるのか、なぜお茶は身体にいいのか、お茶の歴史やペットボトル茶の技術などについても触れていますので、よりお茶を深く知れる読み物としても楽しんで頂けると思います。 本書をさまざまなシーンで活用することで、ぜひ「一目おかれる人」になり、あなたの魅力を深めてください。お茶の楽しみ方を知ってくださる方が増えることを願っています。
大森 正司(大妻女子大学名誉教授・NPO法人日本茶普及協会理事長)