今日は2回目の「土用の丑」。関西ではうなぎではなく〈まむし〉を食べる!? 武士文化の関東は背開き、商人の町、関西は腹開き
食いしん坊な人も、それほどでもないという人も、生きている限りお付き合いし続けなくてはいけないのが「食べ物」。でも、あまりにも身近で当たり前すぎて、意外と知らないことだらけ。この連載では知ると思わず「へ~!」「ほ~!」知っていたほうがお得かもしれない、いつか自分の身になるかもしれない。そんな食べ物トリビアを紹介します。 * * * * * * * ◆日本ならではの考え方 2024年、夏の土用の丑の日は、7月24日と8月5日です。 諸説ありますが、「滋養に富んだうなぎを食べて、暑い夏を乗り切りましょう」と言われていることから、毎年、夏の土用の丑の日にはうなぎを食べるという人も多いのではないでしょうか。 うなぎといえば、関東と関西で調理方法が異なっています。 関東では、うなぎを捌く際、背から包丁を入れる背開きに、関西ではお腹から包丁を入れる腹開きにするのが一般的です。 その理由は、武士の文化が栄えた関東では「お腹を切る=切腹」のイメージがあることから縁起が悪いとされ、背開きにするのがよいとされてきました。 一方、商人の文化が根付く関西では、「腹を割って話し合う」という考えがあったことから、腹開きにすることが多かったと言われています。さまざまな縁起担ぎが根付く日本ならではの考え方ですね。 また、関東ではやわらかく蒸したうなぎにたれをつけて焼く「蒸し焼き」が定番ですが、関西では蒸さずにそのまま焼き上げる「地焼き」が定番。そのため関西のうなぎは関東に比べて香ばしさとしっかりとした身の食感が味わえます。
◆関西人は〈まむし〉がお好き!? ちなみに、関西ではうなぎ屋さんに「まむし」というメニューがあります。「毒蛇のマムシを食べるの?」と驚かれるかもしれませんが、ご安心ください。「まむし」とはうな丼のことです。 一般的にうな丼といえば、ごはんの上にうなぎが乗っていますが、「まむし」は、ごはんの上だけでなく、ごはんの中にも焼いたうなぎが挟まれています。諸説ありますが、ごはんの間で蒸されたうなぎ、「間蒸し→まむし」と呼ばれるようになったそうです。 焼いたうなぎの香ばしさとしっかりとした身質と、蒸されたうなぎの柔らかさの両方を味わえるのが「まむし」の魅力。筆者の出身地である和歌山県でも「まむし」を食べられるうなぎ屋さんがあり、大人気です。子どものころ、母が作ってくれたうな丼にも、ごはんの間に小さなうなぎが挟まれていて、発見するたびに大喜びしていたのを覚えています。 ちなみに、大阪生まれの小説家、織田作之助は代表作の『夫婦善哉』にも「まむし」が登場します。 〈都合五軒の出雲屋の中でまむしのうまいのは相合橋東詰の奴や、ご飯にたっぷりしみこませただしの味が「なんしょ、酒しょが良う利いとおる」のをフーフー口とがらせて食べ……〉。 たれがしみたごはんの中で、ほわほわと蒸された地焼きの香ばしいうなぎ。想像しただけで食べたくなってきますね。
藤岡操