石破首相に米メディアが提言「日本経済復活への課題は熊本の例にあり」
石破首相は30年に及ぶ経済停滞ののちの物価上昇にメリットがあることを、有権者に納得してもらえるのか。米メディアの記者が台湾半導体大手TSMC工場建設に沸く熊本を訪れ、日本の新首相に提言する。(記事は自民党総裁選前の2024年9月に書かれたもの。) 【画像】TSMCの南京工場を空から見てみた
TSMC新工場に沸く熊本県美里町で見た実態
30年にわたって経済が停滞してきた日本が復活しそうな兆しが、もっともよく見て取れる場所がある。それは、かつてキャベツ畑が広がっていた九州の熊本県だ。 熊本県の農村部に新しく完成した半導体工場の周辺では、アパートやホテル、自動車販売店の建設が続々と進んでいる。九州から海を渡れば、中国や台湾、韓国はすぐそこだ。半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の第1工場が2024年2月に開所し、そのすぐ近くでは第2工場の建設も予定されている。 この一帯にはサプライヤーと関連事業が続々と進出し、需要が生まれて賃金と地価が急上昇中だ。雇用創出を受けて、人口も急増している。 とはいえ、工場から車で1時間足らずのところにある美里町には、経済危機が目に見えて明らかな見慣れた景色が広がっている。かつては活気に満ちていた商店街はいま、店舗が閉店してシャッター通りと化した。 1947年に2万4300人とピークを迎えた人口は、およそ3分の1まで減少。代わりにシカやイノシシが増えて町内をうろつくため、住民は畑周辺に網を巡らせて農作物を守るのに必死だ。 田畑を縫うように貫く幹線道路には、長期政権を維持する自由民主党の選挙ポスターがいくつも貼られている。その1枚はこう訴えている。「経済再生 実感をあなたに。」 「(経済再生の)実感なんてありません。私たち農家の暮らしはぎりぎりです」。アスパラガスと米を生産するタケナガ・カズヤ(67歳)はそう話す。肥料や光熱費の値上がりは収益を圧迫し、2人の息子は仕事を求めて美里町を離れたという。
新しい首相への課題
熊本県に広がるこうした対照的な光景からは、9月27日の自民党総裁選で誰が勝利しようとも、次期首相となる人物にとって最大の難題とは何かが浮かび上がってくる。つまり、一部の地域に限らず、国全般に持続的な景気回復を定着させるという難題だ。 経済が成長しているにもかかわらず、それを解決できなかったことが、岸田文雄が首相の座を退かざるを得なくなった一因だ。その岸田の後釜を選出する自民党総裁選では、1950年からほぼ途切れず政権を担ってきた自民党トップの座を目指して9人が出馬した。 1年以内に実施しなくてはならない総選挙で自民党が勝利するのはほぼ間違いないだろう。何しろ、野党は弱くてまとまりがない。 総裁選では、地方の落ち込みや、地方から東京などの都市部への絶えない人口流入といった問題について、候補者らが議論を戦わせてきた。TSMC誘致のようなケースを日本全国で再現すべきだという声が一部から上がっている。 何らかの措置を導入し、地方に観光客を呼び込んだり、企業・学術機関の誘致を推し進めたりすべきだと意見もある。全員が口をそろえて訴えるのは、出生率上昇に向けた対策強化の必要性だが、新しい案や抜本的対策はほとんど打ち出されていない。 景気回復を広く浸透させることができなければ、経済の二重構造が定着し、先進国のなかで都市に資金と人間がもっとも集中する国になる恐れがある。企業は労働力とサービスの確保にますます苦慮することになるだろう。そうした状況は、東京をはじめとする主要都市ではすでに目に見えて明らかだ。