社会人になっても「勉強する人」「しない人」の差は、将来の認知症リスクに表れる!【山田悠史医師】
大人になってからの「知的活動」が脳に与える影響
また、大人になってからの知的活動も、認知症リスクに大きな影響を与えます。仕事や日常生活での「認知的刺激」、つまり頭を使う活動が豊富である人は、認知症のリスクが低いことが知られています。13年以上にわたる10万人以上の人を対象とした研究では、仕事で高い認知的刺激を受けている人は、そうでない人に比べて認知症になるリスクが21%低いという結果が報告されています(参考文献5)。これは、継続的に脳を使い続けることが、脳の健康維持に重要なことを示唆しています。
ここでいう「認知的刺激」というのは、仕事外での能動的な勉強はもちろんのこと、仕事の業務内での能動的な知的業務が含まれます。たとえば、ご紹介した研究の中では、大学講師としての授業の準備、科学者としての研究、技術者としてのソフトウェア開発などが創造的で複雑な仕事に含まれ、認知的刺激が高いと判断されている一方、レジ打ち、受付業務などシンプルでルーチンでできる受動的な仕事は、(もちろん業務としては重要ですが)認知的刺激の低い仕事と判断されています。みなさんの仕事はどの程度がルーチンで済む仕事で、どの程度が能動的で想像力を働かせなければならない仕事でしょうか? それによって研究結果の当てはめ方が変わってくるかもしれません。 また、特に注目すべきは、例え過去に受けた教育のレベルが低くても、仕事で高い認知的刺激を受けている人は、認知症リスクが低いと明らかにされた点です。これは、たとえ子ども時代の教育が十分でなくても、大人になってから知的な活動に従事することで、挽回して認知症リスクを下げられる可能性を示唆しています。 逆に、大人になってから勉強をやめたり、知的な活動に参加したりしなくなると、脳への刺激が減少します。脳は使わないと機能が低下する臓器であり、日々の生活で頭を使う機会が少なくなると、認知機能が徐々に衰えてしまいます。これは、筋肉を使わないと筋力が落ちるのと似ています。だからこそ、社会人になっても新しいことを学んだり、趣味や活動を通じて脳を刺激し続けたりすることが重要です。