「このままでは続けられない」震災の記憶伝える語り部、資金難と高齢化に危機感 それでも伝えたい現状 #知り続ける
高齢化に危機感
語り部が高齢化していることも伝承団体の不安の一つだ。3.11メモリアルネットワークが23年に公表した調査結果によると、224の団体のうち15団体が後継者不足に悩んでいる。 後継者を見つけ、語り部活動を持続可能なものにするには、どんな仕組みが必要か。参考になりそうなのが、79年前の1945年に原爆を投下された広島市の取り組みだ。高齢化する被爆者の体験を語り継ぐため、12年度から次世代の伝承者を養成している。 この事業は伝承者養成に2年の歳月をかける。現在は約200人の伝承者が原爆資料館で定期的に講話をするほか、厚生労働省の費用負担で全国に派遣されている。東北大の佐藤翔輔准教授(災害伝承学)は「広島市の事業は東北の被災地でもモデルとなる」と話す。 実際に福島県は、広島市を参考に23年度から語り部の育成講座を始めた。 2月初め、福島県富岡町の集会所で「東日本大震災・原子力災害体験伝承者育成講座」の修了式が開かれ、50~70代の計4人が修了証書を受け取った。講座は昨年10月からこの日まで計3回あり、先輩語り部の講話を聞いたり、互いにインタビューをしたりして、語る内容を見直してきた。 「どんなに時が流れても、つらさと折り合いをつけながら生きている」。修了者の一人で、同県双葉町の介護施設職員だった岩本美智子さん(50)は講座を締めくくる発表会で、今も続く心の痛みを語りかけた。
「行政のさらなる仕組みを」
ただ、自治体が育成に取り組む場合でも苦労は伴う。岩手県釜石市は19年度から、希望する市民に対して、伝承活動に必要な知識を共有する研修を始めた。今年1月末までに9~84歳の110人が受講し「伝承者証」を受け取った。しかし、2年間の有効期限を迎える際に39人が更新を辞退した。担当者は「市外への進学や転勤が主な理由だ」と説明する。新規申し込みも減少傾向で、担当者は「伝承者がゼロにならないよう、細々とでも活動をつなぐことが重要」と話す。 神戸大の室崎益輝・名誉教授(防災計画学)は「防災・減災のための伝承は本来、国を含む行政の仕事だ。語り部の言葉を全国の財産とするために、民間の活動を財政的に支えつつ専門的な人材を育てる、行政のさらなる仕組みが必要だ」と提言する。 能登半島地震の被災地にも支援、調査に入った「3.11メモリアルネットワーク」の中川政治専務理事(47)は「能登では震災を教訓に津波の避難訓練を重ね、命を守った地域があった。人の行動に変化を生み出せるのが語り部。語り部の発信を必要な人へつなぐのは民間が担うが、長期的、専門的視点に立った支援は行政にしかできない。互いに補完し持続的なものにできれば、未来の命をもっと守れる」と話す。 【毎日新聞・奥田伸一、百武信幸、小川祐希】
※この記事は毎日新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。