「このままでは続けられない」震災の記憶伝える語り部、資金難と高齢化に危機感 それでも伝えたい現状 #知り続ける
手薄な公的支援
多くの語り部が、釘子さんと同様に不安を抱えている。伝承団体の連携を支援している公益社団法人「3.11メモリアルネットワーク」が23年12月に公表した調査結果によると、岩手、宮城、福島の被災3県で活動する24の伝承団体のうち23団体が活動の継続に不安を抱えていた。21年公表の調査から毎年回答している19団体に絞ると、不安を抱える団体数は14(21年調査)から18(23年調査)に増えた。 背景には、伝承団体が収入を得づらくなっていることがある。24の伝承団体のうち20団体が、講師料などの対価収入を活動資金としている。しかし伝承団体の来訪者数は13年の約25万人をピークに、関心の低下やコロナ禍に伴い右肩下がりで、23年は約19万人だ。 一方で、国の財源を活動資金としているのは24団体中、3団体にとどまった。国に伝承活動の支援制度はなく、被災者の生きがい作りを支援する復興庁の「心の復興」事業など他制度を活用しているとみられる。 このほか、県の財源と回答したのが3団体、市町村の財源は9団体だった。今後期待する財源として19団体が国を、11団体が県を、12団体が市町村を挙げており、伝承団体の期待に行政が応えられていないことが分かる。 陸前高田市の釘子さんは、公立の伝承施設での定期的な講演会の開催や、教育委員会による小中学校への派遣を提案する。これらの事業で語り部が定期的に報酬を得られれば「活動の基盤ができ、語り部を事業として存続させられる」と訴える。
懐厳しい行政
ただ、行政も懐事情は厳しい。1133人が犠牲となった宮城県東松島市は23年度、伝承活動に取り組む2団体の支援に、計50万円の補助金を交付した。担当者は「人手やお金の面で、できる範囲はこの程度だ」と話す。被災した駅舎を改修した伝承施設の維持や運営に毎年かかる約1500万円の負担が重い上、職員は被災者向けの交付金の手続きなど複数の仕事を抱えており余裕がないためだ。 宮城県は23年度、伝承に関する予算として約14億2800万円を当初予算に盛り込んだ。そのうち、活動を支援するために伝承団体に直接交付された補助金は900万円だ。県復興支援・伝承課の担当者は「県の支援が十分とは言えない」と自己評価する。岩手県には同年度、伝承団体を直接支援する補助金制度はなかった。 両県は国に対して、担い手確保や育成など、支援制度の創設を求めている。復興庁は23年度、「復興にかかる知見の収集」として1億円の予算を計上したが、伝承団体の課題を調査したのみだ。 宮城県の村井嘉浩知事は2月のインタビューで、伝承団体の支援について「被害の大きな自治体は過疎化が進んでおり、財政的に大変。国の支援があっていいのではないか」と指摘した。復興庁の出先機関である宮城復興局の職員も「国の積極的な関与が必要だ」と訴える。こうした声に対し、土屋品子復興相は8日の記者会見で「若者、働き手世代の担い手確保が重要。伝承活動の認知度を高めるための発信強化が課題だ」などと述べたが具体的な支援策は言及しなかった。