ネックになっている。イングランド代表がケインを先発から外すべき理由。スイス戦から見えた課題【ユーロ2024分析コラム】
UEFAユーロ2024(EURO2024)準々決勝、イングランド代表対スイス代表が現地時間6日に行われ、PK戦の末にイングランド代表が勝利した。今大会を通して内容面の乏しさで批判をされているイングランド代表はこの試合もフルタイムで1-1の引き分けと、これで90分間では4試合連続のドローに終わっている。それでも内容面ではポジティブなことも多く、5試合目にしてようやく明るい兆しが見え始めた。(文:安洋一郎) 【動画】イングランド代表vsスイス代表 ハイライト
●イングランド代表がPK戦の末にベスト4進出 「つまらない」「退屈」「眠い」「宝の持ち腐れ」。 イングランド代表はユーロ2024(EURO2024)に臨む出場国の中で最も市場価値が高いチームだが、その試合内容は散々に批判をされてきた。 実際に準々決勝より前の4試合で快勝と呼べる試合は結果と内容のどちらの観点からも一つもなく、スロバキア代表とのラウンド16は90+4分にロングスローから根性で同点に追いつき、延長戦でセットプレーから勝ち越しゴールを決めていた。 現地時間6日に行われたスイス代表との準々決勝でもなかなか決定機を作ることができず、先制されて迎えた80分に90分間で唯一の枠内シュートとなったブカヨ・サカのボックス外からのゴラッソで何とか同点に追いついている。その後、2試合連続での延長戦を余儀なくされ、そこでも決着がつかずに勝敗の行方はPK戦に委ねられた。 このPK戦でイングランド代表はキッカー5人全員がネットを揺らすことに成功。ラウンド16で前回王者イタリア代表に何もさせなかった強豪スイス代表を下し、2大会連続でのベスト4進出を決めている。 今大会イングランド代表が戦った5試合のうち、90分間の結果で勝利をしたのはグループリーグ初戦のセルビア代表戦が最後。それ以降の4試合はすべて90分間では引き分けと、相変わらずギリギリでの戦いを繰り広げているが、筆者は今回のスイス代表戦でようやく内容面で明るい兆しが見え始めたと言いたい。 ●イングランド代表がみせた明るい兆し スイス代表との試合でイングランド代表を最も評価したいのは、相手のことを分析して対策を立てていたことだ。これはこの試合を除く4試合では見られなかった。 その対策とはスイス代表の[3-4-2-1]のシステムに合わせて、自分たちも[3-4-2-1]にしたこと。これまでのイングランド代表は[4-2-3-1]でスタートすることにこだわっていたが、ようやく戦術的な柔軟性をみせたと言える。 イングランド代表の[3-4-2-1]で良かったのは、右ウイングバックにブカヨ・サカを置いたこと。本来ウイングバックのポジションには順足の選手を起用しがちで、この試合のスタメンだけ見るとサカを左、キーラン・トリッピアーを右で起用してもおかしくなかった。 サカを[3-4-2-1]のミラーゲームで右に置いたメリットは、対峙した左ウイングバックのミシェル・アエビシェールとの1対1での優位性を活かせることである。本来アエビシェールは中盤の選手で、実際に保持時は左の大外から中盤の位置でボールを受けて攻撃面で違いを作っている。 しかし、守備時は左ウイングバックのポジションで相手のアタッカーと対峙しなければならず、サカ相手に分が悪いのは明らかだった。アーセナルのエースは容赦なくアエビシェールを襲い、1対1の局面で圧倒。何度も右サイドを切り裂き、スタッツを見てもサカが地上戦で13戦9勝(勝率69%)と高い勝率を誇ったのに対して、スイス代表MFは8戦1勝(12%)と対人戦で苦しんだ。 ●ポジション被り問題の解決 他にもイングランド代表の[3-4-2-1]のメリットとしてあったのは、ツーシャドーに右からフィル・フォーデン、ジュード・ベリンガムを並べたことである。 これまでの4試合でフォーデンは左ウイングで先発出場していたが、中でボールを受けたい意識が強すぎるあまり、トップ下で起用されていたベリンガムと、最前線から降りたがるハリー・ケインとポジションが被っていた。 ガレス・サウスゲート監督は5試合目にしてようやくトップ下のエリアでのポジションの渋滞問題解決に取り組み、フォーデンとベリンガムの左右の位置関係を入れ替えたことで、以前と比較すると彼ら2人ともプレーしやすそうだった。 他にもチーム唯一の左SBであるルーク・ショーの復帰も朗報で、トリッピアーやコール・パーマー、エベレチ・エゼら左サイドに張ってのプレーを得意としていない選手たちを起用しがちなサウスゲート監督の今後の人選を大きく変えるキッカケとなるかもしれない。 しかし、先述した通り90分間での枠内シュートはサカのボックス外からのミドルシュート1本のみと相変わらず決定機を作れておらず、課題も山積みだ。 ●イングランド代表のボトルネック スイス代表の守備が強固で素晴らしかったのは前提だが、イングランド代表の敵陣ボックス内での駆け引きの少なさも問題だ。 特に厳しいのがハリー・ケインで、28分にサカが個人技でボックス内までドリブルで運んで折り返した場面でも中央で棒立ちしたままだった。そこに点で合えばゴールになるが、初めから動いていないので相手チームからすると守りやすい。 ここがオリー・ワトキンスだった場合、彼が所属するアストン・ヴィラはウナイ・エメリ監督にチームとしてカットバック(ハーフスペースからのマイナスへの折り返し)を仕込まれているため、自身はゴール方向に抜け出して相手DFを自らに食いつかせることで、マイナスへのスペースを空けるだろう。 ロングボールも収まらない、裏へ抜け出すアクションもない、低い位置でボールを捌く影響で、味方選手がサイドから突破してクロスを折り返してもボックス内に入っていないなど、今大会のケインは良い場面が2つのゴールシーン以外はほとんどない。 今のイングランド代表にはケインを筆頭にベリンガムら、自分でゴールを決めたい選手があまりに多すぎる。先発で囮となれるワトキンス、途中から空中戦とPKに強いアイヴァン・トニーを起用した方がイングランド代表の機能性は上がるだろうが、サウスゲート監督が主将でエースのケインをサブに降格させる決断をすることはないだろう。 相手チームに合わせた対策に、チーム唯一の本職レフトバックとなるルーク・ショーが今大会初出場など、ようやく明るい話題が出てきた中で、ケインはチームのボトルネックとなっている。彼のポジショニングや動き出しなどが改善をされない限りはチームとしての得点力不足の改善は見込めず、ここを残りの最大2試合で解消できるかどうかが、イングランド代表の明暗を分けるだろう。 (文:安洋一郎)
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