M&A仲介大手「全社株価急落」の深い理由、高額手数料や悪質ダイレクトメールにメスも
こうした材料が冒頭の株価急落の要因と見られているが、気になるのは大手仲介事業者4社の下落率に差があることだ。なかでもM&A総研HDの下落率が目につく。 6月9日の一部報道によれば、M&A総研HD傘下のM&A総合研究所が「資本提携に関するご面談の依頼」と題するダイレクトメッセージを郵送し、実態のない架空の資本提携先の斡旋が行われているという。この報道が一段の「嫌気売り」につながった可能性がある。
M&A総研が郵送しているダイレクトメッセージについて、前出とは別の業界関係者は「あれは自主規制に照らしてギリギリの内容だ」と指摘する。 M&A総研もM&A仲介協会の加盟社だが、自主規制では禁止事項として「相手方を譲り受けることについて関心・興味がある企業の存在を確認していないにもかかわらず、当該企業が存在する又は当該企業から依頼を受けていると偽り又はそのように誤認させるもの」と定めている。 M&A総研は「譲り受けに強い関心を示す“可能性がある”弊社クライアント企業をご紹介させてください」という文言で案件を持ちかけているとされ、これが前述の禁止事項に照らして「ギリギリ」の部分なのだという。
■背景に紹介案件のパイプの弱さ M&A仲介では、紹介料を払って金融機関や会計事務所などから案件を紹介してもらう「紹介案件」と、仲介事業者自らが案件を獲得しに行く「ダイレクト案件」の2つがある。 老舗の仲介事業者は金融機関などとのネットワークを築いてきたことで紹介案件を獲得しやすいのに対して、2018年設立のM&A総研はそのパイプが弱い。それゆえ「着手金や中間報酬を取らない完全成功報酬の料金体系」という新たなビジネスモデルのもと、ダイレクト案件を軸に事業を急拡大してきた。
業界内には、こうした「ダイレクト案件への収益依存が強引な営業活動につながっているのではないか」という声もある。ある仲介事業者幹部は、「メッセージを送付するコンサルタント任せにしてしまうと過剰な表現になりがち。当社ではコンサルタント以外の管理部員が、メール履歴などから買い手の実在などをチェックしている」と話す。 とはいえ、ダイレクト案件での強引な営業活動は業界全体の課題とも言える。「仲介事業者が郵送するダイレクトメールが、仲介事業者に届くことすらある」(同)といい、こうした実態は仲介事業者が手当たり次第に案件を持ちかけている証左とも言える。