手術と診断書なしで「性別変更できる」国が増加中…日本人なら知っておきたい「トランスジェンダー問題」の現在地
自身の性自認によって、法的に性別を変更できる「ジェンダー・セルフID制度」の導入が、世界各国で広がりつつある。 【マンガ】追いつめられた女性が「メンズエステ」の世界で味わった「壮絶体験」 2012年にアルゼンチンが始めたのを皮切りに、デンマークやポルトガル、ブラジル、コロンビア、アイルランド、ノルウェー、スイス、カナダなどで導入されている。最近でも2023年にスペイン、フィンランド、今年11月にドイツで導入された。 日本においても事実上、性別適合手術なしで性別変更が可能になるなど、性自認を優先する流れとなっている。 前編記事『「女性専用サロンで男性器の脱毛を拒否→賠償金3万5000ドル」性自認を優先するアメリカやカナダでトラブル続出「日本人が知らない驚くべき実態」』に続き、日本でのジェンダー・セルフID制度の導入可能性について解説する。
想定外だった「女性の権利侵害」
身体的性別よりも性自認を優先させることによって、諸外国では「女性の権利が侵害されている」との意見が増えてきている。 一方、「日本では欧米のように極端に社会が変化するようなことはない」との楽観論もみられる。しかし、著書に『LGBT問題を考える』がある医師の斉藤佳苗氏はこう語る。 (上図は、ILGA(国連関連団体でもある世界最大のLGBT活動家団体)の資料などをもとに斉藤氏が作成) 「今までに『ジェンダー・セルフID制度』を導入した多くの国でも、明らかな男性の見た目を持つ人が女性専用スペースに入ってくることに、女性たちが事前に同意していた国はありませんでした。むしろ彼女たちは、そのような事態は起こり得ないと説明されていたのです。 もしくは、2015年にアイルランドで起こったように、国民に対してほぼ説明せずにこっそり『ジェンダー・セルフID制度』を導入してしまった事例もあります。日本でも同じようなことが起こる可能性は十分あります」(斉藤氏、以下「」も)
「手術なし+医師の診断書のみ」で性別変更可
日本においても、身体的性別よりも性自認を優先する兆候はすでに出てきており、性同一性障害と診断された人の戸籍性別の変更における手術要件廃止を求める声がある。 2023年10月、最高裁判所は手術要件のうち生殖不能要件(生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること)が憲法違反という判断を下した。 これにより、FtM(Female to Male:身体的性別が女性、性自認が男性)については、性別適合手術なし(子宮と卵巣を持ったまま)で戸籍上の性別変更が可能になり、2024年7月時点で数十人が戸籍性別の変更を行っている。 外観要件(変更後の性と類似した性器の外観を持つこと)については、広島高裁に差し戻されて審議され、2024年7月には、MtF(Male to Female:身体的性別が男性、性自認が女性)の原告について、性別適合手術を受けていない状態でも、女性ホルモン治療による変化によって要件を満たすとされた。 その結果事実上、男性器のある状態で戸籍上の性別を女性に変更できるようになったため、当時「異例の判決」と報じられた。 つまり、現状では「性別適合手術なし+医師の診断書のみ」で戸籍上の性別を変更できることを意味している。 日本ではいまだにトランスジェンダーと言われると、性同一性障害の中核群(自分の肉体に違和感をもち、性別適合手術など医学的介入を希望する人)をイメージする人が多いかもしれない。 しかし実際、厚生労働省の委託調査では、トランスジェンダーのうち、そのような人は2割に満たないことが示されている。 今年11月に「ジェンダー・セルフID制度」が施行されたドイツでは、手術どころか医師の診断書すら不要で、性自認に基づいて自由に法的性別を変えられるようになった。日本もドイツと同じような制度が整備される可能性はあるのだろうか。