財源とロードマップなき「観光立国」に警鐘。高級ホテル開発最大手社長が語る「宿泊税が必要な理由」
東京都では「100円か200円」。日本の宿泊税の現状
── 宿泊税に関しては2024年3月、経済同友会の観光再生戦略委員会委員長として法定目的税化を提言しました。 宿泊税は、地域の観光振興のための重要な財源になり得ます。ただ、日本の宿泊税は海外と比べて低額。全国で2002年に初めて導入した東京都は1万円以上1万5000円未満が1泊100円、1万5000円以上が同200円。これが他の自治体の目安になってしまっている面があります。 また、定額制か定率制かという議論もあります。定額制だと、100円が200円になっても2倍にしかなりませんが、定率制なら宿泊単価に応じて金額が上がる。高級ホテルであれば、200円、300円の話ではなくなります。定率制のほうが適切に財源を確保でき、将来の物価上昇にも対応できるのではないでしょうか。 ── ホテル業界から反対の声はありませんか? あります。主にフロントで説明する手間やシステム改修のコストなどの面で懸念されています。客が減るという懸念もあるのですが、この点に関してはこれまで宿泊税導入で客が減ったという事例は出ていないんです。 宿泊事業者の理解を得るために重要なのは、集めた税金の使途を明確にすることです。目的税化ですね。観光振興のための財源であることを法的に位置づけ、使い道を透明化する必要があります。また、宿泊事業者やステークホルダーを含めた協議会を設置し、地域全体の観光を良くする議論ができる体制を作ることも重要です。
熱海で始まる「宿泊税とDMO」の新しいかたち
── 観光地域づくり法人(DMO※)の強化も、持続可能な観光産業のために重要だと指摘しています。 日本には全国に約300強のDMOがありますが、多くが国の予算、つまり補助金に依存しています。これでは持続可能ではありません。また、人材不足や資金不足により、DMOのできることにも限界があります。 そこで提案したいのが、宿泊税をDMOの運営に充てるという仕組みです。地域が自立した財源を持ち、それをDMOの運営に充てることで、より成果を明確にしながらDMOの活動ができるようになると考えています。 ※観光地域づくり法人(DMO):地域のあらゆる観光資源に精通し、地域のさまざまなステークホルダーと協同しながら観光地域づくりの戦略と実現を手掛ける法人。Destination Management Organizationを略してDMOと呼ばれる。 ── 先行事例はあるのでしょうか。 海外の事例では、アメリカのオーランドのDMOが宿泊税を管理し、使途を明確にした上で観光振興に充てています。日本でも熱海市が来年4月から宿泊税を導入し、DMOの運営予算に充てる計画があると聞いています。 ── どうすればそうした構造的な改革を実現できるでしょうか。 国レベルでの制度設計が必要です。宿泊税についても、各自治体が個別に導入するのではなく、国が法定目的税として制度設計し、観光振興のための財源であることを明確にしたパッケージを作るべきです。 さらに、観光関連施設の価格設定も見直す必要があるでしょう。日本の娯楽サービス費の割合は他国と比べて低く、美術館などの入場料も安価です。国際基準に合わせた価格設定を検討し、必要な設備投資を行うことで、観光地としての魅力を高めていくことが重要です。 世界の旅行者数は年2~3%増加しています。日本のGDPに占める観光の割合は現在2%程度ですが、世界平均は4%。つまり、まだ成長の余地があるということです。 2025年度は、2026~2028年度の日本の観光戦略「観光立国推進基本計画」を検討し、策定する重要な年です。日本の経済成長を支える分野として、持続可能な観光産業に向けて踏み込んだ議論を期待しています。
高阪のぞみ,湯田陽子