3千万円、1億円超の高額な新薬 問われる費用対効果と医師の悩み
「薬のやめ時」を模索する研究
北里大学病院の佐々木氏は、医療現場では薬剤が高価かどうかはあまり意識していないと言う。 「以前よりいい治療成績の薬はどんどん出てきています。医師としては、成績がよりいい薬を使います。なぜなら、いい薬があるのに使わず、それで治療がよくならなかったら、極端な話、患者さんや家族に訴えられる可能性もある。なので、診療の現場では、患者さんが拒否される場合を除いて、高価だから使わないという判断はほとんどないです」 現状では、オプジーボなどの阻害薬は、がん種ごとに設けられたガイドラインのもと、適用できる患者が絞り込まれている。誰にでも簡単に処方できるようにはなっていない。ただ、診療の現場が薬剤費抑制の努力をするには限界があると佐々木氏は言う。
「たとえばオプジーボは、いまは非小細胞肺がんや胃がんなど九つのがん種で承認されており、適応が格段に広がっています。さらに、その他の抗がん剤との併用療法もできるようになりました。ガイドラインで推奨される『薬の組み合わせ』の範囲も広がっているのです。結果的に、使える患者数も薬を使う機会も増えている。なので、一人当たりに使う薬剤の総額は高くなっていると思います」 腫瘍内科医の神田慎太郎・信州大学附属病院信州がんセンター准教授は、オプジーボなどの高額な阻害薬を使用する際、悩ましく思うことが二つあるという。一つは、奏効割合(がんが縮小する割合)が20%ほどなど、効果に個人差がある薬剤をどう効率的に使っていくかという問題。もう一つは、そうした薬にあまり効果が見られなかったときの薬のやめ時だ。 神田氏が以前勤めていた病院で、こんな事例があったという。進行した非小細胞肺がんを患う60代の男性は、ある抗がん剤が効かなくなり、オプジーボを使い始めたところ、画像上がんが著しく縮小し、1年以上は効いていた。ところが、肺の腫瘍が大きくなり、オプジーボの効果が薄れたため、神田氏は他の抗がん剤に切り替えるよう勧めた。けれども男性はオプジーボの治療の続行を希望した。他の抗がん剤の効果がわからないうえ、オプジーボをやめてしまうよりは続けた方がよいのではないかと考えたためだ。だが、その後も腫瘍は増大し、新たに脳にも転移した。 「がんが再び大きくなり、私たちの期待していた効果がなくなってきているとわかる。そうなって治療の継続が勧められないと医師が判断しても、特に副作用もない患者さんの場合、薬の継続を強く希望される方は少なからずいます。こうなると、医師としてもどこまで続けるべきか非常に迷います」