「雑談のない職場」が致命的にダメである納得理由 環境を変えるだけでイノベーションが生まれる
ワクチンの一種を共同で開発したカタリン・カリコとドリュー・ワイスマン〔訳注 両者は2023年のノーベル生理学・医学賞を受賞した〕は、職場のコピー機の順番を待っていてたまたま出会ったという。 ■何気ない会話がイノベーションを生む 共有空間で起きる何気ない会話の重要性は、ハーバード大学医学部の研究シンポジウムで参加者を対象に行われた実験によって証明された。 実験の開始直後、研究者たちは異なる部屋に無作為に分けられ、他の参加者と90分の非構造化ブレインストーミング〔訳注 制約や規則のないブレインストーミング〕に参加するよう求められた。
実験の前に研究者どうしが協力する確率は低かったが、同じ部屋でこれほど短い時間を一緒に過ごしただけで、偶然出会った2人がのちに共同研究の補助金申請を提出する確率が70%近く増えた。共有空間は生産性の高い空間なのだ。 この予期せぬ幸運は、イノベーションの混沌とした社会的側面から生まれる。ふとしたきっかけで始まった会話が議論や協力関係に発展し、大きな問題を解決することがあるのだ。 ランチを食べながらくつろいだ会話をしていて、飛躍的なアイデアにつながる千載一遇のチャンスが訪れるかもしれない。一般に、イノベーションとは1人の天才による孤独な活動の成果だと考えられがちだ。
だが、科学や工学における歴史上の偉大で画期的な発見の多くは、象牙の塔にこもって熱心に働く一個人によって成し遂げられたわけではなく、別分野の誰かによる偶然の洞察から生まれたものだ。 一例として近代原子論がよく知られる。会計というおよそ化学に縁のない分野に携わっていたアントワーヌ・ラボアジエが、化学界の誰も気づかなかったある事実に気づいた。 当時の燃焼理論〔訳注 フロギストン説を指す〕では反応の前後で帳尻が合わないのだ。何かが足りなかった。それに気づいたことが酸素の発見へとつながり、のちに近代原子論につながった。