エディターが新しい沼への扉を開いたのは「バレエ ザ・ニュークラシック」でした。
「バレエの世界は、いまだに男性と女性によってステップが違うんです。例えばピアノなら、ショパンを男性が弾いても女性が弾いてもいい。しかしバレエだと決められていて、それがあまり今っぽくないなと思って。今回は誰よりも美しい白鳥を踊ってもらおうということで、二山さんにお話ししました」と堀内将平が語った通り、これまでの慣例を取り払った作品は全く新しいもの。
そして中盤に会場全体を魅了したのは若手の超注目株、アメリカン・バレエ・シアター アパレンティスの三宅啄未。全身がバネなんじゃないかと思うほどの跳躍力と滞空時間に驚きながら、なんといっても踊ることを全身で楽しんでいるFUNなムードに全員が引き込まれていました。 全ての演目を通して演出された、静と動、妖艶な魅力と力強さ、といった緩急はもちろんのこと、ひとつひとつの演目の中にも表現のメリハリが散りばめられていて、観客も感情の波が落ち着くことがない。ピアノやチェロの生演奏の素晴らしさ、ブレスパフォーマンス、照明の演出......全てを語り出したら本当に止まらないのですが、必ず触れておきたいのは今回のプログラムを輝かせていた衣装のこと。
前回に引き続き、衣装を手掛けたチカキサダの幾左田千佳は、2022年の舞台で使用した衣装や、チカキサダのアーカイブ、演者らから集めた使われなくなったバレエ衣装をアップサイクルし、まったく新しい衣装を再生。通常、ほとんどのバレエの衣装はそれぞれの演目のためだけに作られ、使いまわすこともリメイクすることもなく消費されるのだが、そこに歴史や想いを引き継ぎながら全く新しい形で息を吹き込み、蘇らせた。衣装を纏ったダンサーの動きとともになびくチュールは、美の相乗効果を導き出していました。
元の持ち主のネームタグや細かなスパンコールまで余すところなく美しく生まれ変わる。「衣装に残るネームタグや、ファンデーションに染まった襟、親御さんが何回も直した刺繍などには、ラインストーンよりも美しい輝きがあります」(堀内将平)