『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』相原裕美監督 音楽業界の経験がもたらすもの【Director’s Interview Vol.407】
加藤和彦の再評価プロジェクト
Q:相原さんのキャリアについても、ぜひ聞かせてください。レコード会社のビクターを退職されてから映像制作会社を立ち上げたそうですが、松居大悟監督と一緒に映画も作られていますよね。それは独立してからのタイミングだったのでしょうか。 相原:松居くんと一緒にやったのは、独立してからかな。ビクターからクリープハイプをデビューさせるにあたりミュージックビデオを作ることになったのですが、クリープハイプと松居くんは仲が良いらしいと。だったら尾崎世界観と松居くんでミュージックビデオを撮ろう、となった。松居くんはどちらかというと映画畑なので、それならミュージックビデオに前後をつけたショートムービー的なものをやろうと。そんな話からですね。 Q:その後、相原さんはプロデュース業務を行いつつも、こうして映画監督もやるようになりました。ご自身のキャリアで、自分が監督として映画を撮るようになることは想像されていましたか。 相原:想像してなかったですね。鋤田さんに「どうすんだよ?」って詰められなければやってなかったです(笑)。 Q:期せずして映画監督になられたわけですが、今回の『トノバン』も『SUKITA~』や『音響ハウス~』も、どれも「映画を撮りたい」というよりも「鋤田さんや音響ハウスや加藤和彦さんを世間に知らしめたい」というところから出発していますね。「監督になりたい」というよりも「表現したいもの」が先にあった感じなのでしょうか。 相原:確かにそうですね。映画を撮りたいというよりも、幸宏さんの「加藤さんの再評価が出来たら」という意を汲んで、その上で自分ができることは?というところから始まっています。それで映画を作りました。 この映画と同じタイミングで、加藤さんのCD作品集が出たり、本の復刻版が出たり、今後はトリビュートコンサートも控えています。加藤さんの再評価で皆さん盛り上がってきましたね。映画が引っ張った部分はあるかもしれませんが、映画単体を超えた一つのプロジェクトになっています。今回の出資会社は、何かしら加藤さんと関わりのあった会社ばかり。今回は、加藤さんの再評価に向けて何をやろうか?というところから始まった仕事なんです。 Q:監督だけではなくプロデューサーもやっていますが、出資を募ることも担当されたのでしょうか。 相原:そうですね。最初に取材とリサーチをして企画書を作り、それを持って出資者を集めてまわりました。全部で12社くらい集まったので、そこまで多いと小口でもいける。そこも良かったところですね。 企画・構成・監督・プロデュース:相原裕美 1960年生まれ、神奈川県出身。コネクツ合同会社 代表、プロデューサー、映画監督。ビクタースタジオでレコーディングエンジニアを経験した後、1984年ビクター音楽産業(株)(現ビクターエンタテインメント)ビデオソフト制作室に異動、制作ディレクターとなる。オリジナルビデオ企画編成の傍ら、ミュージックビデオの黎明期と重なり、同社アーティストのミュージックビデオを演出・プロデュース共、数多く手掛ける。主なアーティストはサザンオールスターズ(メンバーのソロも含む)、ARB、Cocco、頭脳警察、フライングキッズ、永瀬正敏、斉藤和義など多数。その仕事の中で当時新人だった岩井俊二や下山天ら映画監督を見出した。2003年スペースシャワーミュージックアワードでプロデュースした「東京」桑田佳祐(演出:信藤三雄 脚本:リリー・フランキー)がVIDEO OF THE YEARを受賞。2004年同社映像制作部を設立し同部部長、お笑いレーベル『コンテンツリーグ』の設立や映画に参入。2009年同社退社後、2010年コネクツ合同会社を設立。 取材・文:香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 撮影:青木一成 『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』 5月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開 配給:NAKACHIKA PICTURES ⓒ2024「トノバン」製作委員会
香田史生
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