『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』相原裕美監督 音楽業界の経験がもたらすもの【Director’s Interview Vol.407】
撮り下ろしからアーカイブまで、膨大な素材
Q:撮り下ろしだけではなくアーカイブ映像なども活用されています。幸宏さんのシーンはアーカイブだったのでしょうか。 相原:あれはNHKのアーカイブですね。幸宏さんは病状が進んでいたこともあり、タイミング的に取材することはかないませんでした。関係者にアーカイブの存在を教えてもらい成立したものです。 Q:坂本龍一さんは電話の声で出演されていますが、あれもアーカイブですか。 相原:そうですね。Rittor Musicから「バハマ・ベルリン・パリ~加藤和彦ヨーロッパ3部作」というムック本が今回復刻されたのですが、当時その本に載った坂本さんのコメントがあったんです。それの大元の電話取材音声です。当時の編集者が「もしかしたらまだ音声が残っているんじゃないか」と探してくれたものです。そうやって、加藤さんとお付き合いのあった方々の協力無しでは、今回は作れなかったと思いますね。 Q:吉田拓郎さんと松任谷正隆さんもラジオのアーカイブとして出演されています。 相原:拓郎さんにも出演依頼をしたのですが、すでに引退されていてテレビなどの出演も全て終わった後でした。「ちょっと映画の出演は(難しいか)なぁ」という話になったとき、ラジオで松任谷さんと拓郎さんがたまたまトノバンの話をしていたと教えてもらったんです。聞いてみたら、内容的にもバッチリだった。それでTokyo FMの知り合いに頼んで使わせてもらいました。 Q:トノバン本人が出ているインタビュー映像もありましたね。 相原:2~3ヶ所で使用しました。本当はもっと入れたかったのですが、当時の加藤さんの素材が全然無いんです。70年代ぐらいのアーカイブってほとんどなくて、テレビ局では全部消されちゃっているみたいですね。 Q:インタビューはそれぞれどれくらいの時間をかけて撮ったのでしょうか。 相原:人によって違いますが、新田和長さん(当時のプロデューサー)が一番長かったかな。3時間ぐらい撮りましたね。そのうち5分の1も使ってないと思いますが(笑)。 Q:撮影素材はすごい分量になってそうですね。編集は大変だったのではないでしょうか。 相原:結構細かく削りましたが、それでも最初にできたバージョンは6時間半ありました(笑)。『SUKITA~』も最初はそれぐらいありましたね。そこから削る作業は大変なんです。だって削りたくないから(笑)。でも僕は元々プロデューサーなので、それでは儲からないとキッチリ削りました(笑)。 編集の具体的な作業としては、まずインタビュー音声を全て文字起こしして、それを元に自分で文字編集を行い、そのデータを元に編集スタッフに繋いでもらいました。そこから削っていくわけですが、自分一人だけだとどうしても無理。編集スタッフの客観的な視点でドンドン削ってもらいました。「ここも削っちゃったの?」と思うこともありますが、そうでもしないと短く出来ませんね。 Q:文字で編集することも相当大変ですよね。 相原:いやぁ、大変ですよ。パソコン上だとA4一枚程度しか見れないので、出力してバーっと並べて構成しています。ジグソーパズルみたいになってますね(笑)。
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