この秋、古都・奈良を訪ねる|世界遺産「興福寺」で国宝を見学し、「奈良町」で食と酒を味わう
現代につながる和室のしつらえや美意識の源流に触れる
今西清兵衛商店に隣接する「今西家書院」にもぜひ立ち寄りたい。ここは室町時代における初期の書院造りの特徴をよく伝える建物で重要文化財に指定されている。 もともとは興福寺大乗院家の坊官を永く務めた福智院家の居宅を、大正13年に今西家が譲り受けたものという。 角柱、障子、襖など和室のしつらえは書院造りに由来する。「猫間(子持ち)障子」「網代編みの天井」など、和の美意識は細部まで息づいている。 庭を眺めながら喫茶もできる。「いざいざ奈良」キャンペーンCMにも登場する「春鹿」の大吟醸酒粕アイス最中や季節の和菓子などのデザートプレートも賞味できる。
酒蔵をリノベーションした個性的で上質なホテル
◆町の記憶、土地の歴史まで体感できる宿 「奈良町」の東に位置する春日山は、春日大社の神域として、1100年以上も前から森林が守られてきた、樹齢数百年の巨樹が息づいている。その伏流水が湧き出る「奈良町」周辺には、酒造がいくつもあったという。 「豊祝」で知られる奈良豊澤酒造もまた、明治時代にこの地で創業している。昭和10年に酒蔵が移転した後、住居として使われていた場所で建物をリノベーションし、個性的で上質な宿として生まれ変わったのが「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」である。 床の間や欄間のある和室とベッドルームを備える部屋や、元米蔵という太い梁が魅力的な部屋、茶室だった隠れ家のような部屋など、すべて異なる造りの全8室。いずれもテレビと時計はおかれていない。歴史ある建物に流れる時間を、存分に体感したい。 各客室の冷蔵庫には豊澤酒造の酒が用意され、いずれも無料。さらに入浴用の酒粕も用意されている。酒粕の馥郁たる香りが漂う浴室は、日本酒好きには桃源郷の心持ちとなることだろう。 ◆蔵元直送の美酒と滋味あふれる地元食材の料理 「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」のレストランは、酒蔵の土間をリノベーションした空間だ。高い天井に黒光りする梁が、伝統の奥深さを感じさせる。奈良豊澤酒造から直送の搾りたての酒など、ここでしか味わえない日本酒と、滋味あふれる奈良の食材を活かした料理の組み合わせが満喫できる。昼食と夕食は宿泊者でなくても楽しめる。 宿泊者だけの“特権”が朝食だ。 まずは奈良の名物「茶粥」を薬味とともに。大和野菜など、滋味あふれる地元奈良の食材を使用した粕汁は、優しく体に染みわたるよう。たっぷり呑んだ翌朝に、これ以上はない和の朝食だ。 市街地に豊かな自然が隣接する奈良。その精髄が「奈良町」と言えよう。錦繍の秋、寺院の限定公開などさまざまな特典のある奈良を訪れてみてはいかがだろう。 取材・文・撮影/編集部
サライ.jp