この秋、古都・奈良を訪ねる|世界遺産「興福寺」で国宝を見学し、「奈良町」で食と酒を味わう
「奈良町」散策の勘どころ。体験したい食と酒
◆奈良では「スパイスカレー」を食すべし シルクロードの終着点である奈良は、スパイスと縁が深い。奈良時代、医薬として日本に渡来、今も正倉院には約40種が現存するという香辛料、現在はカレーのスパイスとしてなじみ深い物が多い。クローブは丁字(ちょうじ)、クミンは馬芹(ばきん)など漢名がついていて、現在も生薬として漢方薬に使われている。 奈良時代、少なからぬ渡来僧が暮らした寺院は、あるいはスパイスの香りがただようことがあったのかも知れない。 そんな歴史や風土の記憶だろうか、近年、奈良ではスパイスの風味を打ち出したカレー店が次々と登場している。 そのひとつ「cafe & gallery メカブ」は、2023年11月のオープンながら、「スパイスカレーランチ」が評判の店だ。 この店では、11月限定で興福寺執事長で境内管理室長の辻明俊さん監修による「たぬきカレー」が味わえる。興福寺に残る中世の記録『多門院日記』に記された「たぬき汁」がヒントになっているそうだ。 具材にはこんにゃく、大根、ごぼうを使用、香辛料には原型を残した丁字、八角(スターアニス)黒胡椒が香りと食感のアクセントを発揮し、鬱金(ターメリック)やコリアンダー、ガラムマサラなど粉末のスパイスが、清々しく風味をまとめる。 ひき肉のような食感は、高野豆腐やレンズ豆、ひよこ豆だそうだ。隠し味には地元酒蔵の酒粕を使用しているとのこと。 奈良の歴史や名刹と香辛料とは思いも寄らぬ組み合わせだが、舌と胃袋で体感し、まほろばの都に思いを馳せるのも旅の楽しみだ。 実はこの「cafe & gallery メカブ」、本誌2024年8月号のカレー特集で、興福寺執事長で境内管理室長の辻明俊さんと大安寺副住職の河野裕韶さんによる「カレー対談」をさせてもらっている。 「香辛料や薬草が手を取り合って、ひとつのカレーになった。食材に調和をもたらすスパイスは仏教に通じます」とはそのときの辻さんの言葉である。 ◆「清酒」発祥の地・奈良の酒蔵で5種を利き酒 米を醸して造る日本酒は元来、どぶろくなどの「にごりざけ」だった。これが透明な「清酒」になったのは中世の奈良、正暦寺でのこと。それゆえ奈良は「清酒発祥の地」とされている。 清酒「春鹿」の醸造元として知られる今西清兵衛商店は、興福寺にほど近い「奈良町」の一角で明治17年創業。街を歩きながら立ち寄れる酒蔵だ。 ここでは5種類の「春鹿」を、700円(税込)で利き酒できる。5種類のラインナップは季節により変わるそうだが、飲み比べると味わいの違いがよくわかる。説明を聞きながら味わえば、同じ蔵でも米や製法次第でここまで違うかと一段と興味も増す。