22歳ココイチFC社長「意欲と学ぶ姿勢」育んだ背景 「自分を見つけるため遠回りしても遅くはない」
ボランティアで得た気づき、突然の「次期社長の打診」
そんな諸沢さんは高校卒業後、アルバイトを続けながら、いったん募金活動を主体としたボランティアの道に進んでいる。 「大学進学も考えたのですが、とくに学びたいことがなかったんです。しっかりと目的を持って行くべきだと思っていたので、何となく大学生になるのはお金を出してくれる親にも申し訳ないし、もったいないなと。もともと私は人のために何かしたいと思っていましたので、だったら今ボランティアに挑戦してしまおうと思ったんです」 人のために何かしたいと思うようになったのは、母親の影響が大きいという。あるとき家族で出かけたときのこと。母親が突然、前方へ走り出した。何をするのかと思ったら、重たい荷物を持ったお年寄りに駆け寄り、荷物を持って一緒に階段を上がっていった。幼い頃からそうした母親の姿や、誰かのために動く人に感銘を受けていたという。 しかし、やってみてわかったことだが、募金活動は支援する相手の顔が見えないものだった。やはり自分は直接言葉を交わしながら、人のために働き、人が成長する姿を見ていきたい――そんな思いが募った。 「結果として、自分はどのような形で人のためになりたいかが明確になり、ボランティアは半年ほどで辞め、ココイチの仕事に本腰を入れるようになったのです」と、諸沢さんは振り返る。 諸沢さんはその後、2021年には、ココイチで最高位の接客スペシャリスト資格「ココスペ『スター』」を獲得。実店舗で覆面調査のような審査がある、現在でも全国で31名しかいない超難関の資格だといい、諸沢さんは当時、全国で16人目かつ最年少で獲得した。 驚くことに、そのスター資格の祝いの席で、突然会社のトップから次期社長を打診されたそうだ。「自分が社長になるとは思っていなかったし、なろうと思ったこともなかった」(諸沢さん)が、チャンスがやってきたのなら挑戦したいと思い、すぐに快諾したという。
「大学進学or就職」の現状、若者に「いろんな選択肢を」
しかし、社長業である。二つ返事で引き受けてしまう度胸や挑戦心はどこで育まれたのだろうか。 「小さい頃から意欲はすごくあって、負けず嫌いな性格ではありましたね。例えば、運動は苦手なのですが、できるようになりたいし楽しみたいと思って、中学時代はバスケ部に入りました。結局レギュラーにはなれず、声出し担当だったのですが、それが今の接客に生きています。人生にムダなことは何もないんです!」と、笑う。 そうした前向きな姿勢は、「母の影響が大きいのかもしれません」と、諸沢さん。つねにポジティブな声かけをしてくれた。例えば、学校のテストの点数が悪いときも、「でも前より2点も上がったじゃない、えらい!」と褒めてくれたそうだ。「勉強しなさい」と言われたこともない。 「ただ、時間を守ることや挨拶などの礼儀には厳しかったですね。実は、西牧会長もよく従業員に対して『挨拶や礼儀など、人として大切なことを磨くためにうちを使ってね』と言います。つまり、わが家も会社も、人としてどうあるべきかという点を大事にしている。この仕事を長く続けてこられたのは、ここが一致したことも大きいです」 高校生の頃から重要な仕事を任され、22歳という若さで社長に大抜擢された諸沢さんは、現在の学校教育をどう見ているのか。公立の小中学校と私立高校で過ごした自身の経験を振り返り、こう語る。 「実質、高校卒業後は主に大学進学か就職しか選択肢がありません。正直、私はその二択の中で将来どうすればよいかわからず悩みました。夢も決まってないのに、何となく大学に行って遊んでしまったら何も得られません。アルバイトをしながらいろんな経験をしたり資格を取ったりしてから大学に入ってもいいし、アルバイトが合っていればその道を究めてもいい。自分を見つけるためには遠回りをしても遅くないと思うので、いろんな選択肢を生徒たちに提示してほしいですね。 また、昔よりも世間の目が厳しく、思うようにできないと葛藤している先生はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。先生方がもっとやりたいことをやれる環境があってほしいと思います」 社長の打診があってから経営学やマーケティングなどを学び、今年5月に社長に就任した諸沢さん。今後3年間で、西牧会長のサポートを得ながら業務を段階的に引き継ぎ、その後は、諸沢さんと同時期に抜擢された若手ブレーンたちと共に、本格的に経営のかじ取りを行っていく。 現在、スカイスクレイパーが運営する店舗は27店舗。「創業者の理念を現場に伝え続け、同じ思いで働いてくれるスタッフを増やし、店舗数も拡大していきたい」と、諸沢さんは話す。どんな人材を必要としているかと問うと、「具体的な人材像はない」ときっぱりと言い、こう続けた。 「『あなたはこうなりなさい』は絶対だめだと思うんです。何か夢があるならば、その夢をかなえるためにうちの仕事がどう生かせるかを考えて仕事に取り組み、一生使える何かを学んでほしい。それぞれの幸せの価値観に合わせて、成長してもらいたいと考えています」 今後、諸沢さんが社長としてどのような手腕を見せるのか。楽しみだ。 (文:國貞文隆、編集部 佐藤ちひろ、写真:スカイスクレイパー提供)
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