東京・墨田区で「赤ちゃんポスト」計画が進行中…国内1例目の「病院vs行政」から学ぶ"重大な争点"
■東京も「社会調査は実施」の方針 さて、東京の赤ちゃんポストは実現するのだろうか。 2024年度末まで半年を切った。東京都の児童相談所が熊本市児童相談所を訪ねたという話や、打ち合わせが順調に進んでいるという情報も耳にする。 東京都の担当課長は、まだ仮の話であり、一般論だと前置きしたうえで、「預け入れられた赤ちゃんは要保護児童という扱いになるので、児童相談所運営指針に基づいて社会調査を行う」「事例を積み重ねながら対応していくことになる」と話した。 東京に赤ちゃんポストができれば、大阪以北に暮らす孤立出産した女性にとっては、熊本まで連れていくよりは負担が軽く預け入れられることになるだろう。だが、女性の側に立てば、熊本であろうと東京であろうと、社会調査は行われ、場合によっては身元が判明する。 ■望まぬ妊娠で悩んでいる女性たちへ いま、妊娠を打ち明けられずに立ち尽くしている人に伝えたい。もしも、あなたが赤ちゃんポストに預け入れることを考えているのなら、勇気を出して、熊本の慈恵病院に内密出産の相談をしてほしい。 そうすれば、安全に出産することができるうえに、赤ちゃんの処遇も行政が現行法に則って適切に対応する。そして、あなたの身元情報の秘密は守られる。 賛育会病院を運営する社会福祉法人「賛育会」も、24年度中に開始する内密出産の一環として、匿名での妊娠相談窓口を設置している。 もし、赤ちゃんポストに預け入れる考えが変わらないのなら、預け入れたあと、あなたの身元は高い確率で判明し、接触されると思ったほうがいい。そのとき、あなたが赤ちゃんを遺棄せずに赤ちゃんポストに連れていったことを福祉行政の人たちが労い、あなたの心身のケアに尽くし、赤ちゃんにとって最善の選択をいっしょに考えてくれることを願う。 だが、現実には福祉行政は極めて属人性に依っている。ゆりかごに預け入れた後に身元を明かして自分で育てる選択をした母親が4年後に娘を虐待死させてしまった事件を忘れることはできない(連載第1回・第2回・第3回)。 この事例では、児童相談所を含む行政は女性に対し加罰的で、複数の部署が関わっていながら母子支援は機能していなかった。 赤ちゃんポストの矛盾が棚上げにされ続けてきた状況を見れば、内密出産の法整備のほうが母子の福祉にかなっているのは明らかだ。なお、内密出産のガイドライン策定に尽力した伊藤孝恵参議院議員(国民民主党)は、来年度中の法案提出に向け、内密出産法の議員立法を準備している。 ---------- 三宅 玲子(みやけ・れいこ) ノンフィクションライター 熊本県生まれ。「ひとと世の中」をテーマに取材。2024年3月、北海道から九州まで11の独立書店の物語『本屋のない人生なんて』(光文社)を出版。他に『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』(文芸春秋)。 ----------
ノンフィクションライター 三宅 玲子