実車を見ての印象は? 関係者は何を語った!? 「フェラーリ12チリンドリ」発表会見聞録
パフォーマンスも大切だけど
発表会の冒頭、カランド氏のプレゼンテーションでは、“御大”エンツォ・フェラーリのムービーも流しつつ、12チリンドリがブランドの核となるモデルであることを主張していた。1947年に初めてマラネロの門を出たフェラーリはFRの12気筒だったし、日本に初めて正規輸入された「275GTB」を含め、1960年代のあまたの名車、傑作も同様。その伝統を継ぐ12チリンドリこそ、フェラーリの本流であるという筋書きだ。 いっぽうで、カランド氏はこのクルマがパフォーマンスと快適性を両立したロードモデルであることにも言及していた。例えば「ホイールには精緻なデザイン性を重視して、鍛造削り出しのアイテムも用意しました。逆にカーボンホイールの設定はナシ。これはレーシングに特化したモデルではないので」といった具合だ。 考えてみれば12チリンドリは、今なおパフォーマンス原理主義を掲げるスーパースポーツのトレンドとは、微妙に距離を置いている。確かに最高出力830PS、0-100km/h加速2.9秒、最高速340km/hという動力性能は十分に狂気だが、このかいわいでは同門の「SF90」を含め、今や「ターボやモーターの力を借りて最高出力1000PSオーバー。4WDでコーナリングも別次元」なんてクルマも珍しくない。過給機もハイブリッドも四駆もなしという12チリンドリは、ある意味非常に禁欲的だ。恐らくはサーキットでのタイムより、古典的なスポーツカーを操る喜び、自然吸気の12気筒エンジンを回す幸せを大切にしたのでしょう。 またプレゼンテーションでは、現在のラインナップにおける12チリンドリのポジションも説明された。いわく、GT寄りの「ローマ」「プロサングエ」と、レーシング寄りの「SF90」「296」の中央、ラインナップのど真ん中に位置するモデルとのことだ。……それにしても、こうしてみると(スペチアーレのような特殊モデルを除いても)ラインナップは実に5車種! こんな大所帯のスーパーカーブランドは、フェラーリをおいてほかにない。だからこそ、各モデルは本領以外の役割を負わされることなく、“あるべき姿”を追求できるのだろう。 伝統的なフェラーリのGTを体現する12チリンドリにしても、その純粋さが許されるのは先述のSF90があるがゆえ。レースのイメージが濃いブランドながら、過度に速さを求めない(と言うと語弊があるけど)モデルを中心に据えられるあたりに、フェラーリの伝統と地力を感じた次第である。