不安で眠れず夜中の3時に素振り・張本勲さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(34)
▽イチローは自己管理で運も引き寄せた 打撃には剛、強、柔と3通りある。「剛」はホームラン打者。「強」は私や川上哲治さん、あるいは長嶋茂雄さんみたいな中距離打者。「柔」というのはイチローみたいな短打ヒッター。イチローは何が一番いいかというと(構えた位置からスイング始動まで)グリップがほとんど動かない。正確さをまず重んじているから、どのコースでもバットの先が最短距離で出る。こういうバッターはほとんどいない。なぜなら短打バッターもアメリカでは「強」に入るから。遠くへ飛ばしたい、強い打球を打ちたいと思うから、どうしてもテイクバックは多少取るんです。反動をちょっと利用するわけです。 イチローは運も強いわね。私らの商売は、力がある、技術が立派だ、これだけじゃ相手に勝てない。これは60%なんですよ。あとは自己管理が20%で、あとは運。運というのはどうしようもない。真芯で打っても打球が正面を突いたらどうしようもないでしょ。これは誰もが分からないが、スポーツには運は必ずある。その運を引き寄せるのは、やっぱり自己管理や、もろもろが一致しないとできないしね。飲んで食って遊びにいって、野球もうまくいきたいというのはね。何かを犠牲にしなきゃ。私も何百回も思い出した。今でも後悔していますよ。引退して40年以上たちますけど、何であの時は夜更かしして遊んだのか。いくらでもありますよ。やっぱり自己管理は一番難しい。若い、エネルギーがある、給料は多い、人気はある、ちやほやされる。遊びに行かない方がおかしいわな。
▽プロに入って打ち方を変えた王と落合 「剛」と「強」の違いは持って生まれたものでしょう。どうしようもないんですよ。肩の強さ、足の速さ、歌のうまいのと下手なのとあるじゃない。持って生まれたものだから。遠くへ飛ばす人、例えば大下弘さん、王貞治、田淵。これが典型的なホームランバッター。山本浩二とか長池徳士なんかは、もともと中距離バッターだから。落合博満も年間50本打ったけど、どっちかというとホームランバッターじゃない。 打者はボール1個でも遠くから見たいから、王は一番後ろ(捕手寄り)に立って右脚を上げる。遠くから見た方がバッターは得で、その間に(打てる)ボールを探せるから。探しながら(手探り状態で)打ちにいくのと、探して(狙い球を待って)打つのじゃ天と地の差がある。トンボ捕りと一緒よ。動いているのを動きながら取るのと、じーっと待って取るのじゃ全然違う。そして、王は動きながら打っている。こんなバッターは見たことがない。一番不利な打ち方をしている。だから洞察力が一番たけているんじゃないの? 動きながら動く球を正確に打つというのは、普通はできませんよ。