まるで海の珍獣図鑑! 16世紀の地図「カルタ・マリナ」とは、奇妙な怪物たちが勢ぞろい
シマクジラ
カルタ・マリナによると、ノルウェーとアイスランドの間の海域はとりわけ多くの危険に満ちている。マグヌスはノルウェー沖に「モスケンの渦潮」を描いている。これは今も存在する実在の大渦だ。オオウミヘビとプリスターの間には、人の目を欺く冷酷な獣シマ(島)クジラが配置されている。 シマクジラは、紀元前300年代、アレクサンドロス大王がアリストテレスに送った手紙にも記されている古い伝承に由来する。物語には2人の船乗りが登場し、島だと思った場所にいかりを下ろす。彼らは上陸して野営地を作り、火を起こした。それが不幸の始まりだった。 「実はそこは島ではなく、クジラの上だったのです。火の気配を感じたクジラは海の底まで潜り、男たちも一緒に沈んでしまいました」とバン・ドゥーザー氏は言う。カルタ・マリナのシマクジラは、ステゴサウルスとサイの中間のような姿をしているが、元になったのはおそらくわれわれもよく知っている普通のクジラだったと思われる。 バン・ドゥーザー氏によると、この時代に文字を読めた人々は、読んだものをそのまま信じてしまう傾向にあったという。「印刷された文字と、そこに添えられた挿絵に対する尊敬の念はとても強かったのです」。オオウミヘビなど一部の怪物は、それが神話の存在であって現実にはいないことが認められるまでに100年以上の時を要した。その他多くの怪物は、次の1世紀の間に、地図製作者たちがより現実的な海洋生物の挿絵を作品に取り入れることができるようになるにつれて、地図の上から姿を消していった。
文=EMILIE LUCCHESI/訳=北村京子