まるで海の珍獣図鑑! 16世紀の地図「カルタ・マリナ」とは、奇妙な怪物たちが勢ぞろい
オオウミヘビ
マグヌスは、ノルウェーの海岸付近で、鮮やかな赤いウミヘビが船を襲い、船が傾いて水中に引き込まれそうになっている様子を描いている。 オオウミヘビは伝承に基づく怪物であり、たとえば聖書には、ヘビに似た海の生きものについての記述がある。この生きものにはまた、マグヌスが船乗りたちから集めた、ノルウェーの海岸近くで目撃した巨大な怪物についての描写も取り入れられている。船乗りによると、この怪物の体は長さ200フィート(60メートル)、太さは20フィート(6メートル)あったという。 19世紀の科学者たちは、このオオウミヘビが実際には何の動物だったのかを特定しようとしたと、書籍『Sea Monsters: The Lore and Legacy of Olaus Magnus’s Marine Map(海の怪物: オラウス・マグヌスの海洋地図の伝説と遺産)』の著者ジョーゼフ・ニグ氏は述べている。あの怪物は、実際にはダイオウイカ、あるいはアザラシやアシカのような鰭脚(ききゃく)類だった可能性がある。そのほか、サメ、クジラ、リュウグウノツカイではないかと考える者たちもいる。 1555年に出版した著書『北方民族文化誌』の中でマグヌスは、オオウミヘビについて、船のそばで首を持ち上げて、不意をつかれた船乗りを甲板から落としてしまうことがあると書いている。オオウミヘビはまた、陸地に這い上って家畜を食べたり、水中に潜って海洋生物を捕食したりできたという。 ほかの歴史家や地図製作者も、オオウミヘビの姿を自分たちの作品に描いている。そうした行為は1700年代に入ってからも長い間続いたと、ニグ氏は言う。
プリスター
カルタ・マリナに描かれている海の怪物たちは、どれも悪意に満ち、人間に遭遇したら危害を加えずにはおかないと決意しているかのように見える。その中でも、プリスターはとりわけ攻撃的だ。『北方民族文化誌』の中でマグヌスは、プリスターについて、体長は200フィート(60メートル)、横幅の広いフォーク状の尾とひれのある足を持ち、顔はイボイノシシに似ており、頭頂部には2つの噴き出し穴があると記している。 バン・ドゥーザー氏によると、プリスターをはじめ、カルタ・マリナに登場する海の怪物たちの多くは、クジラをもとに描かれているという。クジラは広く知られていたものの、人々はクジラが海面に出てきたところしか見たことがなかったのだろうと、バン・ドゥーザー氏は言う。カルタ・マリナにはまた、浜に打ち上げられたクジラを人々が解体し、肉と骨をとっている姿も描かれている。 プリスターは尾を船に打ち下ろしたり、甲板に体を乗り上げるだけで船を沈めたりできたと、マグヌスは書いている。 マグヌスは、怪物たちから身を守る方法も記していた。アイスランドの海岸近くで、2匹のプリスターが船に向かって突進している。「船のいちばん後ろに、一人の男が立っています。手に銃を持っているに違いないと思うかもしれませんが、実は彼が持っているのはラッパなのです」と、バン・ドゥーザー氏は言う。「マグヌスは、海の怪物を追い払う数少ない方法の一つはラッパを吹くことだと書いています」 ほかの地図製作者たちもこれにならい、ニグ氏によると、彼らは何十年にもわたって、マグヌスのプリスターを自分たちが作る地図にも載せていたという。