まるで海の珍獣図鑑! 16世紀の地図「カルタ・マリナ」とは、奇妙な怪物たちが勢ぞろい
荒唐無稽な生きものたちはなぜ描かれ、そして長く信じられたのか
ノルウェー沖では、竜のような頭を持つ巨大なヘビが船に巻き付いている。フェロー諸島の近くには、とてつもなく大きな怪物が、尖ったくちばしでアザラシを捕らえているのが見える。そしてスコットランドの西側では、巨大なザリガニが手足をばたつかせる人間をはさみで持ち上げている。 【関連画像】「カルタ・マリナ」全地図 これらの図は、1530年代末に製作された地図「カルタ・マリナ」に描かれているものだ。カルタ・マリナは、それから50年にわたって、ヨーロッパの海を研究する地図製作者、作家、学者らによって権威ある資料として重用された。現実に即していない部分があることが専門家によって認められるまでには、さらに100年を要し、1700年代初頭になってようやく新しく作られる地図から怪物たちが除外されていった。 「怪物の多くは、非常に空想的な姿をしており、いかにも地図を製作した者がその場ででっち上げて描いたかのように見えます」と、地図史学者で、『Sea Monsters on Medieval and Renaissance Maps(中世とルネサンスの地図に描かれた海の怪物たち)』の著者チェット・バン・ドゥーザー氏は言う。 カルタ・マリナを製作したのは、スウェーデンの大司教オラウス・マグヌスだ。彼は、地図に描いた海の怪物の一部を自ら創作していた。その多くは、現代の人間ならクジラと判断しただろう。しかし、バン・ドゥーザー氏によると、地図に載っている怪物の大半は、挿絵入りの百科事典の内容を真似て描かれたものだという。中には、1世紀に大プリニウスが著した『博物誌』の記述に基づいて描かれたものもある。 マグヌスの地図は、ヨーロッパを地理的に表現した製作物としては最初期のものであり、人々が科学や発見に興味を抱きながらも、まだ自然界についての空想的な信念を持っていた時代に登場した。当時の人々は、竜やオオウミヘビのような見たこともない動物の存在を信じていた。バン・ドゥーザー氏によると、マグヌスが持つ権威と、印刷された言葉への尊敬の念とが相まって、荒唐無稽なクジラの描写さえも現実であるかのように思わせていたという。