【田名網敬一】のスピリットに導かれる異次元のアート体験
時には、巨匠の作品に刺激を得ることもあります。第九章で展示されていたのは、2020年からコロナ禍の間に描かれた「ピカソの悦楽」シリーズ。あらゆるプロジェクトがストップして、時間が空いた時に、かつて制作したピカソ母子像モチーフの作品が目に留まった田名網氏。目的もしめきりもなくピカソの複写を始めたそうです。次第に原画を離れて、ピカソの絵画を独自に発展させます。80代にしてなんと700点以上に及ぶ作品を制作。関係者によると、「すごい細い筆で描いていた」とのことで、それでもこの点数を完成させるとは超人的です。 超人伝説は続き、第十章では、88歳を迎え、自身の記憶の曼荼羅を壮大なスケールで描いた大作の数々を展示。想像力や絵の密度、そしてクオリティの高さに圧倒されます。 田名網敬一の世界に没入している間は日常を忘れられます。そういえば入り口には現世から異世界への橋「百橋図」がありましたが、出口に戻るための橋は用意されていないことに気付きました。もしかしたら来場者は、極彩色の世界の一部に取り込まれてしまったのかもしれません……。 ■「田名網敬一 記憶の冒険」展 期間:~2024年11月11日(月) 時間:10:00~18:00 (入館は30分前まで)※毎週金・土曜日は20:00まで 休:火曜 会場:国立新美術館 企画展示室1E 東京都港区六本木7-22-2 https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami/ ◇辛酸なめ子 漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。