KYOJO CUP 2024 第3戦|斎藤愛未無双の始まり|2024年7月21日(日)リポート
セカンドベストでスターティンググリッドが決められたKYOJO CUP 第3戦 初のスーパーフォーミュラー(以下「SF」)との共催、初の2連戦となったKYOJO CUP。SFとの共催はドライバーにとって新鮮な驚きではあったが、連戦について問題視する人はいなかった。というのも通常KYOJO CUPは前日に富士チャンピオンレース(FCR)が開催される。伝統あるこのレースは時代と共にレースの形や参加する車両が変してきているが、現在は86、ロードスター、デミオ、ネオヒストリックカーそしてFCR-VITAの5つのカテゴリーで行われており、KYOJO共催時にはKYOJO車両と同じVITAが使用されるFCR-VITAカテゴリーが行われる。 FCR-VITAカテゴリーの参加条件はVita車両であることだけであるため、KYOJOドライバーはほぼ全員がFCR-VITAにも参加する。つまり、KYOJO CUPは毎戦FCR-VITAとの連戦という条件となるため、第2戦と第3戦が連続して行われても「普段通り」というわけだ。 【画像22枚】参戦ドライバーやマシンなど 問題は、通常の場合決勝の直前に行われていた予選が2日前であったこと。しかも、予選でのベストタイムは前日に行われた第2戦でのスターティンググリッドとなり、2番目のタイムであるセカンドベストは第3戦で使用される。予選順位が決勝での結果に大きく影響するKYOJO CUPでは、この方式に疑問を持つドライバーが多かった。予選と決勝の間が短いほど、それぞれのドライバーの調子がそのまま反映され、キレイなスタートを切ることはもちろん、TGRコーナー(第1コーナー)以降のレース展開もキレイに進めることができるためだ。 しかも第2戦がかなり荒れたため、各ドライバーともに安全に走行することを第一としており、かなり状況が変化。そのこともあり、2日前のセカンドベストでのスターティンググリッドには納得できなかったドライバーも多かったのである。 キレイなスタートを切るKYOJOドライバーたち ピットウオークはSF以上の盛り上がりに SFとの共催でのもう1つの大きな行事は一般来場者のピットウオークだ。SFやスーパーGTにおいて、レース前にピットロードを一般来場者に開放し、各ピット前にドライバーとレースクイーンが並ぶ。来場者はそんなドライバーたちに声をかけたり、写真撮影をすることができる。今回はメインであるSFチームがAピットを使用するため、TGRコーナー寄りのBピットを使用するKYOJO各チームだったが、SFのピットへの来場者はそのままの流れでBピットに流れてきた。 特に家族連れの注目度が高く、KYOJOの各ピットには人だかりができていた。KYOJO各ドライバーにもファンが付いており、サインを求める来場者も多く、このレースウイーク中でもっとも盛り上がった瞬間となった。 またグリッドウオーク時には、通常各ドライバーの写真とグリッド上のリアルタイム映像がサーキット内にある各モニターに映し出されるのだが、今回はKYOJO各ドライバーの普段の姿や、KYOJO公式サイト( トップ3選手だけでなく、各グループともに熱い走りを展開 予選は下野璃央が予選トップ。しかもセカンドベストも1位となった。そのため第2戦に続き、この第3戦も先頭でグリッドに。下野璃央はいつ優勝してもおかしくない状況だ。その後ろに第2戦で勝利し、ますます調子があがっている斎藤愛未、7月19日(金)に行われた予選では不調だったものの第2戦の本戦で本来の鋭いコーナリングテクニックが戻ってきた翁長実希が虎視眈々とトップの座を狙う。 スタート直後、キレイなスタートを切る斎藤と翁長が下野のインを差し、一気に抜き去るとそのままTGRコーナーに突入。アウトから入った翁長だったが、逆にイン側となるAコーナーで斎藤の前に。そしてその2台を下野が猛然と追いかける。1周目の最終コーナーまで翁長実希どんどんリードを広げるが、ホームストレートで斎藤があっという間に抜き去りトップへ。 2周目はトップとなった斎藤の後ろに翁長、下野がピッタリと付き、今度は富士スピードウェイ名物でもあるホームストレートの長い直線を生かしてスリップを利用し、一気に前へ。KYOJOのマシンはスリップが効きやすく、FSWのように長い直線の場合はスリップから抜け出したクルマの背後に付き、TGRコーナーまでの間にもう一度スリップを利用し抜き返す場合がある。 ストレートで斎藤をアウト側から一気に抜いた翁長だったが、イン側からは下野が並び3ワイドで1コーナーに飛び込むと、イン側の利点を利用して下野がトップに立った。その後、この3台はコーナーでの無駄な勝負を避け、3台並びで後続を引き離すことに注力。わずか2周で4位以下をスリップ圏外まで引き離すことに成功する。 その状況を見て、3台の最後尾に付けていた斎藤は5周目のホームストレートで一気に翁長と下野を抜き去る。斎藤のストレートでの圧倒的な強さを見せつけた形となった。ここから斎藤は翁長、下野からの逃げに入る。しかしなかなかその差を広げることができない。7周目のホームストレートでは逆に翁長、下野がスリップから抜け出し、TGRコーナーで斎藤をかわす。ここから下野、翁長、斎藤という順番で、コーナーでの無理な仕掛けを避けるようにラップを重ねていく。 この3台の後ろでは富下李央菜が4番手に上がる。初参戦となった2023年の開幕戦でいきなりポールポジションをうばった高校生は、カートの世界において数々の栄冠を勝ち取ってきた天才少女。KYOJO CUPにおいてはなかなか結果が出ていないが、その実力の高さは誰もが知るところだ。その後ろに平川真子。天才レーサー平川亮を兄に持つがレース活動は18歳からと遅咲き。「亮でさえ勝てるのだから」とレースの世界に飛び込んだ。現在、豊田章男会長のプライベートチーム「ルーキーレーシング」にスポンサードされる期待のドライバーだ。そしてその後ろに永井歩夢。モトクロスバイクレースからの転身で、2021年からエントリー。彼女も実力者と言われながら結果が出ない、くやしい日々を送っている一人だ。この3人がセカンドグループを形成する。 8周目、再び斎藤がホームストレートで下野と翁長を抜き去る。その激しいバトルの中、コカコーラーコーナーで下野がショートカット。四輪脱輪(走路外走行)でしかもトップ斎藤の前に出たことから5秒のペナルティが課されることになった。 11周目。スリップから抜け出し、コカコーラーコーナーで下野を抜いてトップに立った斎藤が一気にスパートをかける。それに追いつきたい翁長は下野とバトル。その激しさの中、走行妨害のペナルティが翁長にも課せられることになった。レースは3人がチェッカーまで激しいバトルを繰り返したが、スパートをかけた斎藤に翁長、下野は追いつくことができず、第2戦に続き斎藤の2連勝となった。 ペナルティを課せられた下野と翁長はそれぞれ4位と5位に降格。2位には嬉しい初の表彰台となった富下李央菜。3位に平川真子。棚ぼたですからと謙遜する2人だったが、2人とも3台に引き離されることなく、むしろあと数周あれば追いついていたかも知れないほどのレース展開。胸を張るべき表彰台だ。 「かなりキレイなバトルができたのが良かったです。途中でセカンドグループの先頭になった瞬間に後ろがバトルし始めたので、うまく引き離すことができました。次は予選でもう少し上にいって、スタートダッシュできるようにしたいです」と富下。KYOJOの世界に舞い降りたスーパー高校生は、ついにその実力を実際の結果につなげることになった。しかも彼女は「日本一かわいい高校生」コンテストの関東エリア代表にも選ばれているほどの美少女。天は二物を与えているのである。 「SFが走ったあとなので路面がどうなのかと思ったのですが、特に影響はなかったですね。ただ翁長さんとのバトルでタイヤが消耗してしまって、最後はズルズルの状態でした」と平川真子。実力からすると優勝も可能なドライバーなので、今後に期待だ。 ペナルティで降格し、落ち込んでいるかなと思った下野だったが、記者の顔を見ると「ファステストは取りました!」と満面の笑みを見せてくれた。気持ちの切り替えが早いことも、勝てるレーシングドライバーの条件だ。 坪井翔、斎藤愛未夫妻による快進撃の始まり 斎藤愛未が第2戦で勝利した際には斎藤本人やチーム監督である三浦愛より先に泣いてしまった坪井翔。第3戦では、そのあとに控えているスーパーフォーミュラーの本戦に備え、自身のピットから見守っていた(ちなみに第3戦は斎藤より先に三浦愛監督が泣いた)。 そんな坪井翔は2022年の年末に斎藤と結婚したばかり。2人は幼少期にカートで戦ったライバル。2015年に坪井がFIA-F4選手権選手権でシリーズチャンピオンになり、2018年に全日本F3選手権でシリーズチャンピオン、スーパーGT500では2度のシリーズチャンピオンと日本を代表するレーサーに。斎藤は2019年までカートの各クラスで活躍したあと、2020年から満を辞してKYOJOに参戦。4年の間に表彰台は何度も経験したものの、優勝だけは一度も味わうことがなかった。 そんな状況であったため斎藤が勝利したこの日、夫婦同日優勝の可能性が出てきたことで、サーキット中がおおいにわきたった。 坪井はスーパーGTでは2021年、2023年と年間チャンピオンを獲得し、現在もランキングトップに君臨している。しかしスーパーフォーミュラーでの年間チャンピオンは無く、レースでの勝利も2020年の富士スピードウェイ以来遠ざかっていた。 斎藤の2連勝で、皆の期待が集まる中、坪井はレース中盤でトップに立つと、そのまま勝利。世界初となるメジャーレースでの夫婦同日優勝を記録することとなった。 この日は富士スピードウェイの夏祭りとして、ホームストレートが一般開放。ステージトラックやケータリングが運び込まれ、夜まで続くパーティが開催された。そこでも話題は同日優勝した坪井夫婦の話題で持ちきり。レース専門雑誌やWebだけでなく、スポーツ新聞やYahooニュースなどでも記事がアップされ、KYOJOにとっては最高の1日となった。
Nosweb 編集部