半導体キオクシアHD上場、初値割れも切り返し 「ファンド案件」に安心感
Noriyuki Hirata Miho Uranaka [東京 18日 ロイター] - メモリー半導体大手のキオクシアホールディングスが18日、東証プライム市場に上場した。初値は1440円で公開価格の1455円を下回ったが、その後は切り返して公開価格を10%上回る1601円で引け、時価総額は8630億円となった。時価で今年最大の大型上場で、ファンドが有する株式の売却案件とあって市場の関心が高い中、「初値が無難だったので安心感が生まれた」(証券会社営業)との声が聞かれた。 会見した早坂伸夫社長は「上場したことで、まずは安心した。技術力や生産効率、競争力などに自信があり、これをばねに企業価値向上に努める」と述べた。 NAND型フラッシュメモリー世界3位のキオクシアは、東芝の半導体メモリー事業が前身。米投資ファンドのベインキャピタルが主導する連合が2018年に約2兆円で株式の過半数を取得、買収した。半導体の開発競争が激しさを増す中、同業の米ウエスタンデジタルとの合併を一時模索したこともあるが、韓国SKハイニックスの反対で頓挫した。 これまでに20年10月、今年10月と少なくとも2回上場を計画したが、半導体市況の悪化などでいずれも見送った。今年10月の上場計画では目標の時価総額1兆5000億円に対し、投資家の評価が半分程度だったため、ベインは株式の売却を見送った経緯がある。最終投資家への説明責任を問われるため、ファンドが保有株を売り出す際には価格が比較的高くなるとされ、投資家からは嫌がられる傾向もあるが「繰り返し中止になったファンド案件で警戒されていた中で、比較的しっかり初値がついた」(同)と受け止められた。 上場時の時価総額は仮条件に基づくと約7840億円で、東京メトロの6972億円を上回る大型上場。岩井コスモ証券の斎藤和嘉シニアアナリストは「長い目で見れば(半導体メモリーの一種の)NANDフラッシュの大手として収益拡大が期待できる」と話す。 <ファンド案件や業績に警戒感も> 今回のIPOで投資家からは、ファンドのエグジットによる大型案件への警戒感や半導体市況がダウンサイクルに入る中での事業環境に懸念の声が上がった。一方で、価格が割安とする投資家もいた。 キオクシアは今回、公募・売り出しが1000億円以上と大規模な場合に認められる特例を活用しており、追加売却分を除く公募・売出し規模を1000億円を若干上回る水準に設定。公開価格の決定時には、ベインによる売出株数を縮小し、持ち株のごく一部にとどめるなどして、上場にこぎつけた。 半導体関連の一角として関心を集めそうな一方、岩井コスモの斎藤氏は、NANDは、同じくメモリーの一種のDRAMほどには、AI(人工知能)に関連した需要の面で顕著な拡大は予想されていないとして「DRAMを手がけるSKハイニックスや米マイクロンに比べるとバリュエーションの面で見劣りするかもしれない」と指摘。 大型上場だが、流通株式比率は28%にとどまる。市場では「同社の業績はこの1年で急回復しているが、市況に応じて業績の振幅が激しい面があり、投資家にとって手掛けにくさにつながり得る」(国内証券のアナリスト)との見方も聞かれた。 キオクシアは同日、通常求められる35%を下回る流通株式比率について、30年3月末までの期間に引き上げを目指し、引き続き大株主に追加売却を要請していくと説明[P8N3N306Y]。IPOに伴い追加売却分を除いたベインの持ち分は現在の56.23%から51.64%まで低下する。東芝の保有率は40.64%から32.01%に低下するが、株式売却懸念で株価が抑えられる可能性もある。 キオクシアは、岩手県北上市の新工場の生産を25年秋に開始すると発表した。AIブームを背景に、28年までの5年間でフラッシュメモリーの需要が約2.7倍に増加すると見込む。日本政府は、エレクトロニクス、自動車、防衛産業などに不可欠な半導体の国内製造基盤強化の方針を掲げる中、キオクシアとウエスタンデジタルに対し、生産拡大のために総額約2400億円の支援を約束している。 上場に伴う新株発行でキオクシアは290億円を調達。フラッシュメモリーの需要増加やコスト競争力を上げるための生産能力増強に活用する。今後の設備投資は、基本的に営業キャッシュフローを活用するという。早坂氏は、WDとの統合話は「進んでいるかというと、全くない」と話し、上場しても現在のWDとの関係が壊れるものではないと理解していると語った。