「日本がダメなら海外へ」は通用しない…元・味の素マーケティングマネージャーが教える、海外ビジネスでの“勝ちパターン”
成長マトリクスの縦横両方をやり続ける
ヒット商品を生み出し、日本国内で成功し、そして海外進出でも「アンゾフの成長マトリクス」的な成長を続けているのが、私が所属していた味の素です。 味の素の場合、既存商品がうまみ調味料『味の素』で、それを『ほんだし』にするのが、アンゾフで言う「新規製品×既存市場」です。『味の素』から『ほんだし』に行って、『クックドゥ』に行って、カップスープに行って、冷凍食品に進んだのが日本事業の例です。 そして1950年から60年にかけて、先人たちの苦労によって日本からタイ、フィリピン、インドネシアと、うまみ調味料を世界に広めていく、つまり、「既存商品×新規市場」となります。 グローバルマーケティングの本には、味の素の成功の歴史はうまみ調味料を世界に売ったことだと書いてありますが、現実にはそれだけで1兆円企業になることはできません。 味の素の成功は「アンゾフの成長マトリクス」の、まさに縦と横の両方をやり続けたからこそなのです。 日本の企業の中で縦と横の両方をやっているところは案外少なくて、横はできても縦はできないとか、縦はできても横はやりたくないといったところが多いと感じています。しかし、世界に目を向ければ、コカ・コーラは縦も横もやっていますし、両方やっている企業は多く、その点では味の素の先人たちは偉大だったなと思います。 さらに言えば、味の素の場合は現地に行って、日本の商品を売るだけでなく、現地の味の素がそれぞれの国で横の展開にとても注力しているという特徴があります(図表2・3)。 たとえば、タイにARH社という味の素アセアン地域統括社というのがあります。最近では、その会社がリーダーシップを発揮してパキスタンに新規事業参入を果たしました。その際、何を売るかというと鶏の唐揚げ粉です。私たちの感覚からすると、「なぜ」となりますが、この製品をつくって大成功を収めたのがインドネシアの味の素です。 インドネシアというのはイスラム(ハラル)文化圏で、ラマダンという断食月の時、夜、ものすごい量の鶏の唐揚げを食べるという習慣があり、鶏の唐揚げ粉がとてもよく売れています。 一方、パキスタンも国民の97%がイスラム教徒というイスラム文化圏ですから、インドネシア市場で成功体験のある鶏の唐揚げ粉でパキスタンへの新規参入を図るというのがARH社の方針となったわけです。 つまり、グローバルマーケティングというのは、最初にヒット商品があり、それを海外に輸出して広める活動があるわけですが、次には現地化をしてそれぞれの国に普及定着させたあとは、それぞれの国や地域において『アンゾフの成長マトリクス』が言うところの「縦と横への展開」を行うことで初めて真の成功を手にすることができるのです。 中島 広数 freebee株式会社 代表取締役 元・味の素マーケティングマネージャー 1998年から2018年まで味の素株式会社にて海外事業・海外営業・国内外マーケティング業務に従事(中国に4年間、タイに2年間の駐在経験有り)。2011年には「Cook Do」事業担当となり、5年間の担当期間中に「Cook Do きょうの大皿」の事業開発を含めたロングセラーブランドのリ・ブランディングによる大幅事業拡大を手がけた。 2018年に味の素社を卒業し、事業コンサルティング・新事業/新商品開発・マーケター人材育成を主業務とするfreebee株式会社を創業・代表取締役に就任。現在6期目。日本語・英語・中国語・広東語の4ヵ国語話者。
中島 広数