「日本がダメなら海外へ」は通用しない…元・味の素マーケティングマネージャーが教える、海外ビジネスでの“勝ちパターン”
「日本がダメなら海外へ」は通用しない
このように企業にとって世界、特にアジア市場は非常に魅力的な市場となりつつあるだけに、ぜひとも海外市場へと打って出たいところですが、その際に参考にしたいのが「アンゾフの成長マトリクス」と呼ばれるフレームワークです。 経営を取り巻く環境が大きく変わる中、企業が成長を続けるためにはどのような成長戦略を取ればいいのか、そのヒントとなる考え方が「アンゾフの成長マトリクス」です。考案者のイゴール・アンゾフは、「戦略的経営の父」と呼ばれる、ロシア系アメリカ人の経営学者ですが、その業績の中で最も有名なものの1つです。 これはビジネススクールでも必ず取り上げるものですが、既存製品、新市場、既存市場、新製品という軸があって、エリアを広げるか、新しいものをつくるか、というどちらから行くかを検討するものです(図表1)。 こうした検討をするにあたって注意しなければならないことの1つは、「日本でダメだから海外に行くか」という、安易に海外という新市場への進出を考えてしまうことです。 少し考えれば分かることですが、たとえば味の素が日本の食品メーカーのナンバーワンだからと海外に出たとして、そこには日本国内とは比較にならないほどの手強い敵がいるということです。たとえば、海外に行けば、味の素の10倍以上の売上を誇るネスレや、4倍以上の売り上げを誇るユニリーバがいるわけで、安易な気持ちで海外に出たらとんでもないことになるというのが理解いただけると思います。 同様の話ではトヨタ自動車の元社長・張富士夫さんによると、トヨタは日本国内では圧倒的なシェアを誇っており、アメリカでもかなりのシェアを持っているわけですが、では他の国ではどうかということでかつてヨーロッパの街角に立って通る車を見ていたら、トヨタの車はほとんどなかった。つまり、世界シェアや売上の巨大さだけで判断すると間違いを犯す、というのです。 2023年の春に上海出張に行った時、私も中国の街角に立って、通る車のメーカーを見ていると、確かに日本車は驚くほど少なくなり、テスラや中国のBYDといった電気自動車メーカーの車が急速に増えていることに気づかされました。世界ナンバーワンの自動車メーカーであるトヨタでさえ、このように日本を出れば十分なシェアがとれない国があるのですから、「日本がダメなら海外へ」と考えている経営者は、海外に行き、その目で「何が売れているか」を見ておく必要があります。 成長するうえで「新規市場開拓」はとても魅力的ではあるのですが、安易な海外進出はより手強い敵や市場を相手にすると知ることも大切です。