いま中国で若者の長江への身投げが止まらない~崩れても「壊れ」は押さえ込む「ステルス経済恐慌」の深層
強権で社会を維持しているだけ
しかし、中国社会は壊れていない。それは中国社会が強い権力によって支えられているからである。今の中国では、局所的なクライシスは点、点、点となって、面になっていない。政府共産党はこのような局所的なクライシスを力づくで抑えている。 すでに明らかになっていることだが、中国では、社会治安維持費(予算)は国防予算よりも金額的に大きいといわれている。制度的に軍備は外国侵略から国を守るための体制づくりである。それに対して、社会治安維持は内乱を平定するための組織である。おそらく人数も予算の金額も社会維持費のほうが多い。 そして、中国経済が崩れないのは別の理由によるところが大きい。経済危機が勃発するメカニズムのなかでもっとも重要なのは情報の伝達である。日本のような民主主義の国では、政府が情報を統制できないため、経済が危機的な状況になると、すぐにクラッシュしてしまうことが多い。 それに対して、中国は強権政治である。中国政府のすごいところは情報を統制できることである。情報が統制されると、経済危機に関する情報が人民の間で共有されにくい。むろん、危機が抑えられても、問題が解決されるわけではない。問題を解決しないと、結局、さらなる危機に向かってしまう。中国社会と中国経済が壊れていないが、危機的な状況にあることに変わりがない。
柯 隆(東京財団政策研究所主席研究員)