いま中国で若者の長江への身投げが止まらない~崩れても「壊れ」は押さえ込む「ステルス経済恐慌」の深層
長江の橋、数十メートルおきに自殺防止の監視員が
なぜ中国経済が崩れているというのだろうか。究極的にいえば、市場経済の根幹たる市場メカニズムがマヒしてしまっているからである。中国市場で「見えざる手」が機能しなくなり、資源配分の効率が悪くなり、経済成長の力が弱くなっている。しかし、中国経済がマイナス成長に陥っている十分な証拠がないため、ここでそのような結論をつけることはできない。仮に中国経済がまだ成長しているとすれば、もっぱら量的緩和の金融政策によって実現している。マネーサプライを増やして経済成長率を押し上げても、一時的な効果にすぎず、持続不可能である。 中国経済が崩れているもう一つの証左は若者の失業が急増しているからである。ここであえて公式統計の若者失業率をみないことにする。なぜならば、その統計の定義が変えられ、統計そのものも不完全なものだからである。農村から都市部へ出稼ぎに来ている農家の若者の失業率が統計に含まれていないのは最大の問題である。 40年前に中国で撮られ上映された「芙蓉鎮」という映画が日本でも公開されたが、あの映画は毛沢東時代の暗黒の中国社会の一側面を描いたもので、個人的にもっとも印象に残ったセリフは「生きていこう、豚のようになっていても生きていこう」と反革命分子の烙印を押された二人の主人が励ましあう有名なセリフである。歴史家によると、毛沢東時代は中国2000年の封建社会においてもっとも暗黒な時代だったといわれている。それでも当時の中国人は必死に生きようとした。 それから40年経って、今の中国で若年層の自殺者が急増している。本来、青春時代にある若者は生命力がもっとも強いはずだが、なぜ彼らは自らの命に終止符を打つのだろうか。答えはシンプルで彼らが将来について希望を持てなくなった。いかなる社会でも、若者の世代は将来について希望を持てなくなると、その社会の将来も明るくないはずである。 中国政府は毎年どれぐらいの人が自殺したかの正確な統計を発表していない。中国内外のSNSで若者自殺の現場の動画がたくさんアップされている。もっとも多いパターンは川にかかる橋の上から飛び降りる人と高層ビルから飛び降りる人である。中国を東西流れる大河長江(揚子江)の上をたくさんの大橋を架けられている。重慶や武漢などの大橋の上から飛び降り自殺の人が急増していることから、地元政府は数十メートルおきに警察官や保安員を配置させ、自殺防止に努めているようだ。 また、吹き抜けになっているデパートからの自殺を予防するために、吹き抜けの各階に網を張るようにしている。これらの措置がないよりあったほうがいいが、若者たちを自殺に追い込む社会的原因を取り除かないと、問題の解決にならない。